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第2話

私は、窓の外で消えていく車を見つめ、それから悲しそうな顔をしている陽太を見た。

ずっと心の奥底に押し込めていた記憶が突然、堰を切ったように溢れ出してきた。

しばらく現れなかった考えがまた頭の中に浮かんできた。

そう、もしあの人がまだ生きていたなら。

もし彼がまだここにいたら、陽太の誕生日にこんなふうに彼を置き去りにすることなんて、絶対になかったのに。

次の日、私の机の上に探偵が撮ってきた写真が置かれていた。

白い二つの体が絡み合っていて、まったく美感のない光景だった。

菅野が尋ねた。

「社長、どうなさるおつもりですか?」

私は心の中で考えた末に、こう答えた。

「綾小路家でも源家でも、全ては陽太のものにすべきだ」

浮気相手を作るのは勝手だが、私生児を作ることは許せない。

彼自分と同じく、汚れていて、醜い私生児だけは。

まる一ヶ月、すべてが普段通りのように見えた。

悠は陽太に償いをするため、週末に彼を遊園地に連れて行った。

もし穂乃香とその姪が遊びに来ていなければ、この思い出はきっと楽しいものになっていたのだろう。

彼は笑いながら穂乃香に挨拶をした。

華やかな顔立ちの彼女は、その場でぎこちない笑顔を見せていた。

私は、彼女にもまだ少しの道徳心が残っているのだろうと思った。

少なくとも、正妻の前で挑発して誇示するような、不道徳で愚かなことはしないだろうと。

だが、遊園地で三回も遭遇した後、私はその考えを引っ込めた。

彼女は私が知らない間に夫と視線を交わすのが刺激的だと思っているのかもしれない。

やはり、菅野の言う通り、あまり賢くないようだ。

「せっかくですし、一緒に行きましょうか」

私の笑顔はちょうど良い感じで、完璧に計られたものだった。

穂乃香は少し戸惑ったようだが、同意し、少し申し訳なさそうに言った。

「では、お邪魔させていただきます。私の家はあまり裕福ではないので、遊園地には来たことがないんです。

社長さんたちと一緒なら、間違いないですから!」

穂乃香が何度も現れたことで険しい顔をしていた悠の表情が少し和らいだ。

私の笑顔も少し薄れ、何も言わなかった。

穂乃香の姪がそばでアイスクリームを食べたいと騒いでいた。

悠は紳士的に自分が買いに行くと提案した。

私は穂乃香と一緒にパラソルの下で休んでいた。

少し気を抜いた隙に、陽太が突然怒り出し、その少女を突き倒してしまい、「うそつき!」と泣き叫び始めた。

私は慌てて立ち上がったが、悠が先に動いた。

彼はその少女を助け起こし、陽太を叱責した。

「どうして彼女を押したんだ?

男の子たる者は、女の子をいじめちゃダメだって教えたでしょ!」

陽太は呆然とし、一瞬で泣き出した。

彼はその少女を指さしながら言った。

「彼女が言ったんだ、パパが彼女のおじになるって。僕はもうパパがいなくなるって!」

私の胸が締めつけられ、悠の少し恐れたような目と目が合った。

ついに、表に出す時が来たようだ。

私は歩み寄って、陽太の手を握り、笑顔で穂乃香に言った。

「遠藤さんとお嬢さんにきちんと説明していただけますか?源家の株価にも影響が出る大事なことですから。

誰も本当だとは思いたくないでしょう?」

悠の顔色は目に見えて悪くなった。

いつの頃からか、悠は私の支配から逃れようと必死になっていた。

私は誰も本当だとは思いたくないと言った。

その結果、まもなく私と悠の不仲の噂が界隈に広まった。

皆が言っていた、綾小路家と源家がついに決裂するのだと。

さもなければ、悠がこれほど堂々と浮気相手を連れて歩くことはなかっただろう。

界隈には絶え間なく噂が流れ続けた。

悠が彼女を高級レストランに連れて行った、ショッピングモールでデートをし、バッグを買い、車を買い、家を買った。

穂乃香は彼を屋台に連れて行き、市場をぶらつき、安物のカップル服を着ていたのだと。

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