第8話

悠は何も言わなかった。彼の呼吸は浅く、私の方から聞こえる苦しげなすすり泣きと嘔吐の音を聞いていた。

彼の気分はおそらく晴れやかだったのだろう。

彼はついに一度、私に勝ったからだ。

私は無理やり自分を落ち着かせ、すべての余剰資金を悠の口座に振り込んだ。

「これで足りる？」

悠は少し間を置き、軽く笑って言った。

「これでは一人しか救えないな

涼子、ようくんは俺の実の子じゃないから、俺は彼を救わないよ」

私の頭の中の最後の糸がぷつんと切れ、彼に向かって叫んだ。

「悠、そんなことができると思う？

ようくんは五年間も君をパパと呼んできたのに、どうしてそんなこと言うの？

もし彼に何かあったら、私は君を決して許さない」

悠は低い声で言った。

「俺ができないとでも思うのか？」

彼はもう完全に狂っていた。

自分が何年もかけて築いてきたビジネス帝国が崩れ落ちるのを冷静に見守る男だ。そんな彼がようくんを見捨てることを躊躇するだろうか？

私は荒い息を吐き、頭が回らなくなっていた。

ようくんの泣き叫ぶ声がますます大きくなり、耳に鋭く響いてきた。

「パパ、怖いよ、ママ、助けて......」

悠の呼吸が重くなり、彼は電話を泣き声の方に向けた。

彼の声が不明瞭になった。

「涼子、もしようくんが死んだら、君とアイツの最後の絆も消えるんじゃない？

そうなったら、君は死ぬのかな？」

彼の言っていることは本当だった。

私が最も苦しかった時期、ようくんは私が生き続ける唯一の希望だった。

私はどうして忘れられるだろう、昔の自分がどれだけ良時を愛していたかを。

彼は私の心の中で最も大切な人だったのに、私はほとんど彼を忘れかけていて、悠のような卑劣な人間に心を占められていた。

私は後部座席に縮こまり、頭を窓に何度も打ちつけながら、哀願するように言った。

「お願い、悠」

お願いだから、何でもするから、ようくんを助けて

彼は死んじゃだめ、何も起きちゃいけないの

良時に彼を守ると約束したんだ

私には彼しかいない......」

その時、私は本当に頭が混乱していた。

この時に良時の話をするのは、悠をさらに狂わせるだけだということを忘れていた。

だが、もう遅かった。

悠は軽い声で言った。

「そうだね、君はアイツに息子を守ると約束したんだ

じゃあ、俺は何