第059話

藤島翔太の視点から篠崎葵を見ると、彼女はまるで杉山智正と絡み合いながら、拒絶と誘惑を繰り返すかのような態度を見せていた。藤島翔太の眉が無意識に寄せられた。

「杉山さんが......」と谷原剛は驚いた様子で言った。「杉山家の家風は非常に厳しいのに、杉山家の当主は杉山家の若様たちが外で軽薄なことをするのを決して許しません。それに、杉山さん自身も自律のある人間なのに、なぜ......」

谷原剛は藤島翔太をチラッと見て、それ以上は言葉を続けられなかった。

彼が本当に言いたかったのは、この篠崎葵、なんて力を持っているんだ、ということだ。

藤島様と関係を持ちながら、桜庭さんとも交流があり、さらには自律的な名門の杉山さんとも繋がりを持つなんて、篠崎葵は並外れている、と。

しかし谷原剛は何も言わなかった。

なぜなら藤島翔太の表情が非常に陰鬱だったからだ。

一方で、篠崎葵と杉山智正は藤島翔太が少し離れた車内で全てを見ていることに気付かず、篠崎葵は冷静かつ淡々と杉山智正に言った。「杉山さん、どうかお引き取りください」

杉山智正は再び篠崎葵の腕を掴み、「篠崎さん、僕が悪かった。申し訳ない、許してくれないか？本当に君と友達になりたいんだ。君を彼女にするつもりはない。ただ、君を知りたいだけなんだ。そして、杉山家に招待させてほしいんだ。本当に心からの招待だよ」と言った。

篠崎葵は問い返した。「私を？」

「そうだ、君を」と杉山智正は力強く頷いた。

篠崎葵は信じられないという顔で笑い、「藤島家の宴会で恥をかいた、しかも2万円すら持っていない貧乏な女を、あなたのようなお金持ちの家に招くって？どうして？理由を聞かせてもらえる？」と尋ねた。

杉山智正は「君に謝罪したいんだ」と答えた。

「ごめんなさい、私は謝罪なんて必要ありません。杉山さん、今後は私にもう関わらないでください」篠崎葵は再び冷たく断り、さらに続けて言った。「もしまた私をつけ回すようなら、警察に通報することも考えます。失礼します！」

そう言い終えると、彼女は買った料理を手に夏井淑子の病室へ向かった。

杉山智正はその場でしばらく呆然と立ち尽くし、その後、ある番号に電話をかけた。「おじいさん、あの子、僕の叔母の写真にそっくりです......」

電話の向こうからは年老いた声が聞こえた。「その子を家に招きなさい。自分の