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第019話

彼女が彼の寝室にいるとは?

藤島翔太の目に、嗜血の寒光が一瞬走った。

彼女との結婚式が終わったばかりだったが、藤島のお館様、藤島健史からの緊急電話で、すぐに呼び戻されたのだ。

お館様は今年96歳で、藤島氏グループの掌権者の座を降りてからすでに40年近くが経っているが、藤島家においてはまるで太上皇のようで、今もなお権威的な存在だ。

一か月前、藤島翔太は藤島氏グループの掌控権を一挙に握り、すべての隠された危険を取り除いた。そのとき、お館様は彼に命令を下した。

「翔太、すべての障害を取り除いたなら、残った者たちには手加減してやれ。もしお前がこれを約束してくれるなら、今後は何も口出ししない」藤島健史は半ば強制的に、半ば懇願するように言った。

藤島翔太は冷ややかに答えた。「わかりました」

藤島翔太が藤島氏を掌握してからの二か月間、お館様は一度も干渉してこなかった。

しかし今日、彼と篠崎葵の結婚式が終わったばかりで、母親を病院に送る時間もなかったのに、お館様は緊急に彼を呼び戻したのだ。

藤島翔太はお館様が彼の結婚の噂を聞きつけたのかと思ったが、旧宅に到着すると、おばさんの家の従弟である桜庭隆一がお館様に助けを求めていることがわかった。

「翔太、お前は私に約束したな。もう誰も排除しないと」藤島お館様は言った。

この庶子の孫がどれほど残忍で悪辣かは、藤島健史は二か月前にすでに見てきたのだ。

「お兄さん......俺、本当に知らなかったんだ。あれがあんたの女だとは思わなかった。彼女が工事現場でぼろぼろの服を着てレンガを運んでるのを見て、てっきり田舎から来た可哀想な子だと思ってたんだ...頼む、お兄さん、許してくれ」桜庭隆一は足を震わせ、歯をかみ合わせ、舌さえも真っ直ぐ伸ばせないほどだった。

お爺さんを命綱にしても、桜庭隆一には藤島翔太がその場で彼を殺さないとは限らないという恐怖があった。

藤島翔太の女に手を出すとは!

それはまさに死を招く行為だった。

藤島翔太は桜庭隆一の頭をぐりぐりと撫でた。「隆一、これからは叔父さんと叔母さんの会社を手伝うんだ。若いうちに女を侍らせてばかりいると、そのうち体が持たなくなるぞ!」

藤島翔太の言葉には冷酷さが滲んでいたが、桜庭隆一にはその中に赦しの意図を感じ取れた。

彼は藤島翔太に感謝し、跪きたいほどだった。「ありがとう、ありがとう、お兄さん、勘弁してくれて」

「翔太、隆一が言っていたその女のことはどうなんだ?」お館様は顔をしかめた。「お前のことには干渉しないが、どんな女でも家に連れ込むわけにはいかんぞ!妻に迎える女性なら、家族に紹介するべきだ」

「その女は、母の臨終の際の慰めです」藤島翔太はお爺さんに正直に答えた。

「お前の母親の葬儀が終わったら、その女を始末しなければならん」お館様は無表情で言った。

「わかりました」藤島翔太は短く答えた。

「お前の祖母は一か月以上お前を見ていない。食事をしてから帰りなさい!」お館様の命令には容赦がなかった。

藤島翔太は食事中に篠崎葵からのメッセージを受け取り、彼女が飯店にいることを思い出し、助手の谷原剛に彼女を迎えに行かせた。

だが、篠崎葵が彼の寝室にいるとは思いもしなかった。

彼の寝室は居間でもあり、書斎や大きなテラスにも繋がっている。居間には多くの仕掛けが施されており、無断で侵入して何かを動かすと、最初は警告されるが、

二度と動かすと、悲惨な死が待っている。

さらに、寝室のドアは普通のドアとは逆に設定されており、外から入るのは簡単だが、外に出るのは不可能だ。

これを「瓮中捉鳖(大がめの中からすっぽんを捕らえる)」という。

この女は彼に対して一体何を企んでいるのか?彼が家にいない時を狙って、彼の寝室に無断で侵入するとは?

彼女は毎回、彼の認識を新たにさせる。

藤島翔太は篠崎葵の前にしゃがみ、冷徹で凍るような目で彼女を見つめた。

篠崎葵は角に縮こまり、昼間のウェディングドレスをまだ着ていた。このドレスは篠崎葵に非常によく似合っており、前後の浅いV字のデザインが、彼女のほのかに透ける背中を引き立てていた。彼女があまりに痩せているため、背中の肩甲骨がはっきりと見えていた。

ショートヘアが彼女の首をさらに長く玉のように滑らかに見せており、彼女が手に顔を埋めている姿勢のせいで、首筋と露出した背中のラインが非常に美しい曲線を描いていた。

そして、ウェスト部分のX字デザインが彼女の細い腰をさらに強調しており、藤島翔太は無意識に自分の手を広げてみて、彼女の細い腰を両手で掴んでも余裕があるだろうと感じた。

彼女は膝を抱えて、あごを手の甲に乗せ、目を閉じたまま、目尻に涙を浮かべて眠っていた。彼女が眠っている姿は、起きている時の冷静で落ち着いた印象とは異なった。

むしろ怯えた無力な子供のようだった。

その滴る涙、乱れたまつ毛、微かに寄せられた眉が、彼女の恐怖を物語っていた。

これが藤島翔太に、ひと月前のあの夜、林美月の振る舞いを思い出させた。

不意に、藤島翔太のはっきりとした喉仏が上下に動いた。

ふとした瞬間、藤島翔太は彼女が林美月ではないことを思い出した。

彼女は、彼が家にいない時に彼の寝室に侵入し、死を招くような行為をした女なのだ。

藤島翔太はためらうことなく大きな手で彼女の顎をしっかりと掴み、彼女の顔を無理やり持ち上げさせた。

篠崎葵は悪夢を見ていた。

彼女は両親を失い、一文無しで、さらに悪党たちに追い詰められていた。

「お願いだから私を放して......子供を産んでから、良い家に養子にしてもらってから、私を殺しても構わない......お願い......」彼女は苦しげに懇願した。

相手はただ不気味な笑みを浮かべた。

そして、少しずつ彼女に近づいてきた。

絶望の涙が篠崎葵の頬を伝い落ちた瞬間、リーダー格の男が彼女を崖から突き落とした。

「いやぁぁっ......!」篠崎葵は激痛で目を覚ました。

目の前には、冷酷な藤島翔太の鋭い目が彼女をじっと見据えていた。「話せ!なぜ俺の部屋に入った?死にたいのか?」

彼の手の力が強すぎて、篠崎葵は痛みで涙を流した。

「わ、私......」彼女のまつげは怯えから涙に濡れていた。「......あなたのお母様がくださったあのバングル、とても高価なものだから、リビングに置いておくのが不安で......だから、返そうと思ってドアを叩いたら、勝手に開いてしまって......」

眠る前から、篠崎葵は今日自分が死ぬ運命にあると感じていた。

彼女の心はひどく悲しんでいた。

「私は一体何を間違えたの?」と思った。

八年間、人の世話になりながら、罪を被るために生き、汚され、偶然にも子供を宿してしまった。それがどんな屈辱的な出来事であっても、その子は唯一の親族なのに。せめてその子を産んで、一緒に生きていきたかったのに、天はその機会すらも彼女に与えないのか?

篠崎葵は絶望のまなざしで藤島翔太を見つめた。その凄惨で無力な表情は、瞬く間にいつもの冷静で淡白な表情へと戻った。「ご自由にどうぞ」

男は彼女の顎を放し、篠崎葵を腰ごと持ち上げるように横抱きにした。重心が定まらず、篠崎葵は反射的に彼の首に手を回した。

その瞬間、彼の唇がゆっくりと彼女に近づいてきた。

煙草の心地よい香りが彼女の鼻をかすめたとたん、篠崎葵は顔が赤くなり、無意識のうちに彼を押し返そうとした。「やめて......」

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