第39章 容赦しないから

「どうしたの？」

奈央は強い不安に襲われ、心臓が早鐘のように打ち始めた。

「午後に来たあの弟さんが問題を起こしたんです」

皐月は焦りを隠せずに続けた。

「Dr.霧島が帰った後、彼のお母さんがどうしても転院させたいと言い出し、仕方なく同意しました」

「最初はただの脳震盪だから、他の病院に行っても大丈夫だろうと思っていたんですが、さっき急救センターから電話があって、ある私人病院で患者が手術中に大出血したと。

「患者の情報を確認してみると、あの弟さんだと分かったんです。彼のお母さん、彼をあんな私立病院に連れて行って手術を受けさせたんです！」

皐月は怒り心頭で、こんな母親がいるなんて信じられない。

奈央の顔色も変わり、急いで尋ねた。

「今どこにいるの？」

「まだ道中です。救急車の医師によると、状態は危険で、こちらで準備をしておくようにと言われました。だから急いでDr.霧島を探しに来たんです」

皐月は説明した。

奈央はこの状況の裏に何があるのか考える暇もなく、すぐに皐月に指示を出した。

「血液室に連絡して輸血の準備をさせて、全員に待機を命じて。患者が到着したらすぐに手術室に入れるように」

まだ患者を見ていないが、奈央はすでに状況が極めて厳しいことを感じ取っていた。

手術が必要ないのに、無理やり手術をさせるなんて、これは殺人と何が違うのか。

その母親がなぜそんなことをしたのか理解できなかったし、あの病院の医師がどうやって手術に同意したのかも分からなかった。しかし、このような状況で大出血が起こるのは、必ず重要な血管に触れたためで、命が危険に晒されていると言っても過言ではなかった。

奈央は話しながら急診室の方へ向かおうとしたが、堯之が彼女を呼び止めた。

「Dr.霧島、君......」

「ごめんなさい、戦場ヶ原さん。今日は一緒に食事に行く時間がなさそうです。別の日にしましょう、今度は私がご馳走しますから」

彼女は申し訳なく思いながらも、この状況ではどうしても行くことはできなかった。

堯之は何も言わずに頷いた。

「気にしないで、君の仕事を優先して。時間はたっぷりありますから」

奈央が立ち去り、堯之は花を抱えてその場に取り残された。少しばかり哀れな姿に見えた。

彼は初めて医者の仕事がこれほど大変だと感じた。こんなにも忙しいとは思ってもみなか