高校生の陽菜は、中学の頃に付き合っていた元カレ・伊月のことが今も忘れられないでいる。 ある日、陽菜の母が再婚することに。しかし、母の再婚相手との顔合わせの日に再婚相手と共にやって来たのはなんと、元カレの伊月だった! 親同士の再婚で、陽菜は伊月の家で暮らすことになるが、同居初日に陽菜は伊月から「親の前でだけ仲良くすれば良い」と言われてしまう。 それでも、陽菜がピンチのときには助けてくれたりと、何だかんだ優しい伊月に陽菜はますます惹かれていくけれど……。 「俺は陽菜のこと、妹だなんて思ったことない」 義兄になった元カレと、甘く切ないラブストーリー。
View More「光佑さん、私は結婚に賛成です。これから母のことを、どうぞよろしくお願いします」私は光佑さんに向かって、深々と頭を下げた。今日光佑さんと話してみて、どことなくお父さんと似た雰囲気の優しい光佑さんなら、お母さんを任せられるって思ったから。「俺も……二人の結婚には賛成だよ。父さんには、幸せになって欲しいから」佐野くんも賛成なんだ。良かった……!「ありがとう、二人とも」「ありがとう、陽菜。伊月くんもありがとうね」「……いえ」ニコッと微笑んだ私のお母さんから、照れくさそうに視線を逸らす佐野くん。佐野くんは、ずっと無言だったから。もしかして、結婚には反対なのかと思ったりもしたけど。佐野くんも、二人の結婚に賛成してくれて本当に良かった。「それでね、陽菜。光佑さんと、前から二人で話していたことがあるんだけど……」ん?話していたことって、何だろう?**数週間後の3月下旬。高校1年の春休み、私はお母さんと一緒に佐野家にやって来た。先日、ホテルでの初めての顔合わせのとき、お母さんが言っていた『光佑さんと前から二人で話していたこと』それは、二人が入籍する前にお試しで一緒に住んでみようということだった。そして春休みのこの日、私はお母さんと佐野くんの家に引っ越してきたという訳だ。私は今、マンションから持ってきた荷物を家の中に運んでいるところ。初めて来た佐野くんの家は、大きな一軒家で。広いお庭には、色とりどりの花が咲いている。「菊池さん、貸して。重いものは、俺が運ぶから」佐野くんが、フラフラしながら運んでいた私の手からダンボールを取った。「あ、ありがとう」運んでくれるなんて、佐野くんはやっぱり優しいな。「いいよ。それより……」佐野くんの唇が、私の耳元に近づく。一体何を言われるのだろうと、身構えていると。「あのさ、分かってると思うけど……俺たちが中学の頃に付き合っていたことは、父さんたちには絶対に言うなよ」氷のように冷たい佐野くんの声に、私の背筋がヒヤリとする。「う、うん。もちろん!これまでもこれからも、親には言わないよ」「そう。なら良いけど」自分の言いたいことを言うだけ言うと、佐野くんはダンボールを持ってさっさと歩いていってしまう。ああ……まさか、親の再婚で元カレの佐野くんと一緒に住むことになるなんて。全く思ってもみなかった。これ
「は?なんで、菊池さんがここに……」互いに指をさし、目を見開く私と佐野くん。「えっ。もしかしてあなたたち、知り合いなの?」「う、うん。同じ高校のクラスメイト……」私はお母さんに、正直に答える。まさか、佐野くんが来るなんて……どういう展開?それから再び、4人掛けのテーブル席にお母さんと並んで座るも、心臓のドキドキはなかなか治まらない。だって私の目の前には、仏頂面の佐野くんが座っているんだもの。「初めまして、陽菜ちゃん。僕は、佐野光佑といいます。そして、こっちは息子の伊月」「……」光佑さんに紹介されるも、佐野くんは黙って窓の外を見つめているだけ。「はっ、初めまして、陽菜です。いつも母がお世話になってます」私は立ち上がり、光佑さんと佐野くんに向かって軽く頭を下げた。「それにしても驚いたわ。まさか陽菜と伊月くんが、同じ高校のクラスメイトだったなんて。すごい偶然ね〜」「本当だね。誕生日は伊月のほうが先だから、お兄ちゃんかな?」そうか。お母さんたちが結婚するってことは、佐野くんが私のお兄ちゃんになるんだ。何日か前に、ほんの少しでも佐野くんに近づけたら良いのになとは思ったけど。まさか、元カレが義理の兄になるだなんて……そんなことあるの!?「翔子さん。もしかしたら、運命って本当にあるのかもしれないね」「やだわ、光佑さんったら。子どもたちの前で、恥ずかしい……」ふふ。お母さん、嬉しそうだなあ。光佑さんと笑顔で話すお母さんを見て、私は目を細める。それからコーヒーや紅茶を注文して、待っている間みんなで他愛もない話をした。お母さんと光佑さんの出会いから、私と佐野くんの学校の話など。といっても、佐野くんは終始無言だったから。ほとんど3人で話していたのだけど。光佑さんは、今日会うのが初めてだとは思えないくらいに、すごく話しやすくて。お母さんのことを、とても大切に思ってくれているんだってことが会話から伝わってきた。「陽菜ちゃん、伊月。僕は、翔子さんと一緒になりたいと思ってる。だけど、もし陽菜ちゃんや伊月が嫌っていうのなら……」真剣な面持ちの光佑さんの言葉に、私は向かいに座る佐野くんをちらっと見る。佐野くんは、二人の結婚をどう思っているのか分からないけど。お父さんが亡くなってからのこの10年間、お母さんは朝から晩まで働いて、ご飯も毎日作ってく
放課後。「ただいま〜」「あっ。おかえり、陽菜」帰宅すると、玄関でお母さんが出迎えてくれた。「あれ?お母さん、今日はお仕事は休みだったの?」「ええ。だから、陽菜に大事な話があるって言ってたでしょう?」あっ。そういえば!──『あのね、陽菜。今日、あなたに大事な話があるから。学校が終わったら、なるべく早く帰ってきてくれる?』今朝のお母さんとの会話が、私の頭に浮かんだ。制服から私服に着替えると、私はリビングでお母さんと向かい合って座る。「それで?大事な話ってなに?」テーブルを挟んで目の前に座るお母さんは、いつになく真剣な面持ちだ。「あのね。実はお母さん……再婚しようと思ってるの」「えっ、再婚!?」思いもよらぬ言葉に、私は目を丸くする。我が家は、私が6歳の頃にお父さんが病気で亡くなってから、母と子の二人暮らし。今まで10年間、お母さんが女手一つで私を育ててきてくれた。最近のお母さんは、前よりも楽しそうだから。なんとなく、交際している人がいるんだろうなとは思っていたけど……それでも、びっくりだよ。「相手は今の職場の上司なんだけど、とっても優しい人でね。陽菜さえ良かったら、一度光佑(こうすけ)さんに会ってみて欲しいんだけど……どうかな?」お母さんが付き合ってる人、光佑さんっていうんだ。お母さんが選んだ人なら、きっと良い人に違いない。「うん。私も、光佑さんに会ってみたい!」「それじゃあ、さっそく光佑さんにも伝えておくわね」お母さんの彼氏さんって、一体どんな人なんだろう……?**ドキドキしながら、迎えた週末。私は、お母さんの交際相手との顔合わせのため、自宅近くのホテル内にある、オシャレなレストランにやって来た。スタッフの人に案内された席で私がお母さんと座って待っていると、しばらくしてメガネにスーツ姿の、40代くらいの男性が駆けてきた。「翔子(しょうこ)さん!ごめん、待たせたね」「ううん。私たちも、今来たところだから」“翔子”とは、私のお母さんの名前。お母さんとともに席から立ち上がり、光佑さんの隣に立つ人を目にした瞬間、私は固まってしまう。だって、そこにいたのは……「……ええっ!?う、うそ。佐野くん!?」クラスメイトで元カレの、佐野くんだったから。
わわ、どうしよう。慌てふためく私だったけど、交わった視線はすぐに、佐野くんのほうから逸らされてしまった。……だよね、逸らすよね。分かっていたことだけど、私の胸は針が刺さったようにチクチクと痛む。私と付き合っていた頃の佐野くんは、何だか苦しそうだったし。きっと彼はもう、私とは関わりたくないはず。まだ痛む胸の辺りをギュッと掴むと、私は自分の席へと向かった。**「おい、菊池。ちょっと良いか?」数学の授業のあと、私は教科担当の先生から声をかけられた。「悪いけどこれ、職員室まで持って行ってくれないか?」先生が言った“これ”とは、先ほど授業で回収した、クラス全員分の課題プリント。「先生このあと用があるから、頼んだぞ」私が返事するよりも早く、先生は強引にプリントの束を私に渡してきた。こうなったら、持って行かない訳にはいかなくて。私は、3階の教室から1階の職員室までプリントを持っていくことにした。階段をおりて廊下を歩き、ようやく職員室に到着。──ガラッ!私が職員室の扉を開けたとき、ちょうど扉の先に立っていた人と、思いきりぶつかってしまった。「きゃっ……!」その拍子に足元がふらつき、持っていたプリントが宙を舞う。「危ない!」転びかけた私の身体を、目の前のしっかりとした腕が支えてくれた。だっ、誰……?恐る恐る相手の顔を見上げて、息をのんだ。私がぶつかった人はなんと、佐野くんだったから。「ごごご、ごめんなさいっ!」慌てて彼から体を離してどうにか謝るも、私は佐野くんの目を見られず、うつむいてしまう。佐野くんと付き合っていたときは、緊張して上手く話せなかったけど。別れて2年になる今でも、佐野くんと話すときは目を見れないし、緊張してしまうんだ。「……はい」先ほどぶつかった拍子に床に散らばったプリント数枚を、佐野くんが拾って渡してくれる。「あっ、ありがとう」私は視線を彼から逸らしたままプリントを受け取り、何とかお礼を告げた。「……別に」無表情でそれだけ言うと、佐野くんはスタスタと歩いていく。佐野くん……そっけないけど、プリントを拾ってくれたりして、何だかんだ優しいな。私は、歩いていく佐野くんの背中を見つめる。中学の頃、クールな佐野くんが笑顔で楽しそうにバスケするところを見て一目惚れして以来、ずっと彼が好きだった。未練がましい
『俺、菊池さんのことが好きなんだ』中学2年生の1月。初雪が降った日の放課後。誰もいない教室で私・菊池陽菜(きくちひな)は、ずっと好きだった同級生の佐野伊月(さのいつき)くんに告白された。『菊池さんが良ければ、俺と付き合ってくれないか?』『……っ、はい。よろしくお願いします』私の返事は、もちろんOK。憧れの佐野くんと両想いだなんて、泣きそうなくらいに嬉しかった。だけど……幸せは、長くは続かなかった。『……俺たち、別れようか』3月、校庭の桜の蕾が膨らみつつある頃。中学2年生が終わるのと同時に、私たちのお付き合いも終わりを迎えた。あれから2年。高校1年生になった今でも私は、密かに佐野くんのことを想い続けている。**3月中旬の、ある日の朝。「やばい。もう時間だ」時刻は、午前8時過ぎ。高校の制服姿の私はスクールバッグを肩にかけ、慌てて自宅の玄関へと向かう。菊池陽菜、16歳。肩下までの黒髪ストレートヘア。身長150cmと小柄で童顔のせいか、実年齢よりも下に見られることが多い。「それじゃあ、お母さん。いってきま……」「あっ。ちょっと待って、陽菜」言いかけた『いってきます』は、お母さんに途中で遮られてしまった。「何?」「あのね、陽菜。今日、あなたに大事な話があるから。学校が終わったら、なるべく早く帰ってきてくれる?」「……?うん、分かった。それじゃあ、行ってきます」大事な話って何だろう?と首を傾げながら、私は走って家を出た。私が通う高校は、家から徒歩20分ほどのところにある。「はぁ、はぁ……っ」どこまでも晴れ渡る空の下を、私は全速力で駆け抜ける。時折ふわりと頬を掠める風は温かく、近くの土手に咲く濃いピンク色に染まる河津桜は、ちょうど見頃を迎えた。冬が終わってやって来た春を、全身で堪能したいところだけど。学校に遅刻しそうな私は、ただひたすら通学路を走り続けた。**ふう……いつもよりも家を出るのが少し遅くなったけど、何とか予鈴までに間に合った。「佐野くん、おはよぉ」私が1年4組の教室に入ると、アニメのキャラクターのような、可愛らしい女の子の声が聞こえてきた。そちらに目をやると、窓際の一番後ろの佐野くんの席の周りにだけ、やたらと人が集まっている。佐野くん、また今日も女の子に囲まれてるんだ。ほんと、よくモテるなぁ……。「ね
『俺、菊池さんのことが好きなんだ』中学2年生の1月。初雪が降った日の放課後。誰もいない教室で私・菊池陽菜(きくちひな)は、ずっと好きだった同級生の佐野伊月(さのいつき)くんに告白された。『菊池さんが良ければ、俺と付き合ってくれないか?』『……っ、はい。よろしくお願いします』私の返事は、もちろんOK。憧れの佐野くんと両想いだなんて、泣きそうなくらいに嬉しかった。だけど……幸せは、長くは続かなかった。『……俺たち、別れようか』3月、校庭の桜の蕾が膨らみつつある頃。中学2年生が終わるのと同時に、私たちのお付き合いも終わりを迎えた。あれから2年。高校1年生になった今でも私は、密かに佐野くんのことを想い続けている。**3月中旬の、ある日の朝。「やばい。もう時間だ」時刻は、午前8時過ぎ。高校の制服姿の私はスクールバッグを肩にかけ、慌てて自宅の玄関へと向かう。菊池陽菜、16歳。肩下までの黒髪ストレートヘア。身長150cmと小柄で童顔のせいか、実年齢よりも下に見られることが多い。「それじゃあ、お母さん。いってきま……」「あっ。ちょっと待って、陽菜」言いかけた『いってきます』は、お母さんに途中で遮られてしまった。「何?」「あのね、陽菜。今日、あなたに大事な話があるから。学校が終わったら、なるべく早く帰ってきてくれる?」「……?うん、分かった。それじゃあ、行ってきます」大事な話って何だろう?と首を傾げながら、私は走って家を出た。私が通う高校は、家から徒歩20分ほどのところにある。「はぁ、はぁ……っ」どこまでも晴れ渡る空の下を、私は全速力で駆け抜ける。時折ふわりと頬を掠める風は温かく、近くの土手に咲く濃いピンク色に染まる河津桜は、ちょうど見頃を迎えた。冬が終わってやって来た春を、全身で堪能したいところだけど。学校に遅刻しそうな私は、ただひたすら通学路を走り続けた。**ふう……いつもよりも家を出るのが少し遅くなったけど、何とか予鈴までに間に合った。「佐野くん、おはよぉ」私が1年4組の教室に入ると、アニメのキャラクターのような、可愛らしい女の子の声が聞こえてきた。そちらに目をやると、窓際の一番後ろの佐野くんの席の周りにだけ、やたらと人が集まっている。佐野くん、また今日も女の子に囲まれてるんだ。ほんと、よくモテるなぁ……。「ね...
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