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藤永ゆいか
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Novels by 藤永ゆいか

意地悪なクラスメイトが、最近甘くて困ってます

意地悪なクラスメイトが、最近甘くて困ってます

希空の通う高校には、アイドル並みに人気の双子がいる。希空は優しい双子の兄・陸斗に片思い中で、意地悪な双子の弟・海斗のことは苦手に感じていた。 ところが、ある日をキッカケに希空は、海斗から甘く迫られるようになる。「あいつなんかやめて、俺のことを好きになれよ」海斗の突然の変化に戸惑う希空だったが、さらに陸斗からも「希空ちゃんだけは、誰にも渡したくない」と言われてしまい……。双子の男子たちとの、甘くて少し切ない三角関係の行方は……?
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Chapter: 第9話
私は思わず、相楽くんをじっと見てしまう。「す、好きな女って……?」もしかして私の他にも泣いている女の子がいるのかと、思わずキョロキョロと辺りを見回す私。「ばーか。どう考えても小嶋しかいねぇだろうが」頭の上にコツンと、優しいゲンコツが降ってきた。「う、うそ。相楽くんが、私のことを好きだなんて……冗談だよね?」「冗談じゃない」「『嫌い』の間違いじゃなくて!?」「違う。俺は、小嶋のことが好きだ」何これ。まさかの相楽くんから、こんな突然の告白なんて。私はびっくりし過ぎて、涙も引っ込んでしまった。「いつもお前に意地悪していたくせに。こんな突然、好きだとか言っても信じてもらえねえよな」少し悲しげに笑う相楽くんが、私の頬を伝う涙を指で優しく拭ってくれる。「俺がよく小嶋に意地悪していたのは、陸斗のことが好きなお前に、俺のことを見て欲しかったからだよ」そうだったの?!「ていうか、相楽くんに私が陸斗くんを好きだってことは、一度も話していないのに……」どうして分かったんだろう。「そんなの、いつも小嶋を見てれば分かるよ」「相楽く……っ」すると、相楽くんが戸惑う私のことを正面からぎゅっと力強く抱きしめてくる。「それで?小嶋がこんなにも泣いてたってことは……もしかして、陸斗に告白して振られたとか?」「!」ず、図星だ。相楽くん、すごい。分かるってことは、まさか本当に今まで私のことを見ていてくれたの?「……そうだよ。相楽くんの言うとおり。私、陸斗くんに告白して振られたの……っ」思い出したら、何だかまた泣けてきた。「そうだったんだ。小嶋、頑張って自分の気持ちを陸斗に伝えたんだな」てっきり、いつもみたいにバカにされるのかと思ったら……。「よくやったな、小嶋」相楽くんは微笑むと、私の背中をトントンと手で優しく叩いてくれた。「……っ、ごめん。いつまでもこうして泣いてたらダメだよね。相楽くんの制服が、涙で濡れちゃう」そう言い、私は彼から離れようとするが。「……いいよ」頭の後ろに手を添えられ、相楽くんに再び抱き寄せられる。「俺の胸で良ければ貸すから。今日は、泣きたいだけ泣けば良い」「っうう」私を抱きしめてくれる相楽くんは、すごく温かくて。声も言葉も、いつもよりも優しくて。こんなんじゃ、調子狂っちゃうよ。「なぁ、小嶋。こんなときに言う
Last Updated: 2025-04-15
Chapter: 第8話
返事を聞くのが怖くて、私は俯きそうになる顔を必死に上げると、陸斗くんの瞳が揺れていた。「……ごめん」まるでハンマーで頭を殴られたような、強いショックを受ける。「僕、今まで希空ちゃんのことは……仲の良い友達だと思っていたから」“ 仲の良い友達 ” それはそれで、嬉しいけれど……そっか。陸斗くんは私のこと、好きではなかったんだ。あまりのショックに、頭がクラクラして。息も、いつもみたいに上手くできなくなる。陸斗くんにポニーテールを可愛いって褒めてもらったり、ブレザーを貸してもらったり。香澄ちゃんにも、脈アリだと思うと言ってもらえて……私は、きっと心のどこかで舞い上がってしまっていたんだ。陸斗くんが私を好きだなんて保証は、どこにもなかったのに。なんで、こんな勢いで先走ってしまったのだろう。「……っ」こうなったのも、自業自得なのに。視界が涙で、だんだんとぼやけていく。「希空ちゃん、本当にごめんね」「ううん。自分の気持ちを、伝えたかっただけだから。聞いてくれてありがとう」私はこぼれそうになる涙を必死に堪えて、何とか言い切る。「あの、陸斗くん。私ひとりで図書室の鍵、職員室まで返しにいくから。先に帰ってて」これ以上、陸斗くんと二人きりでいるのは辛くて。私は陸斗くんの手から鍵を取ると、職員室へと向かって駆け出した。◇職員室に鍵を返却したあと、廊下をとぼとぼと歩く私の目からは、ついに堪えていた涙が溢れ出す。「っうう」私、失恋したんだ。陸斗くんに、振られたんだ。私は人気のない廊下の片隅に、力なくしゃがみ込む。「っく、う……っ」さっきから、涙がポロポロと溢れて止まらない。私は、両手で泣き顔を覆う。好きだった。去年、陸斗くんに学校の階段で助けてもらったあの日からずっと……私は、あなたのことが好きだったのに。「振られちゃったよ……っ」『希空ちゃん!おはよう』こんなときでも思い出すのは、陸斗くんの優しい笑顔。好き。たとえ振られても、陸斗くんのことが私はまだ好き。この1年間ずっと、陸斗くんのことだけを想ってきたんだもん。好きって気持ちは、振られたからってそんなに簡単にはなくならないよ。「……小嶋?」突然低い声で名前を呼ばれ、私が顔を上げると。「……っ、相楽くん……」目の前には、部活終わりなのかスポーツバッグを肩にかけた、陸斗
Last Updated: 2025-04-13
Chapter: 第7話
放課後。この日も私は、陸斗くんと一緒に図書委員の当番だった。委員の仕事が終わる頃には、辺りは夕焼け色に染まっていた。図書室の司書の先生に閉館時間になったら、戸締りをするように頼まれていたので、いま私は陸斗くんと図書室で二人きり。今は陸斗くんと分かれて窓の鍵が閉まってるか、ひとつずつ確認しているところ。「希空ちゃん。こっちの窓は、全部OKだよ」「私のほうも大丈夫だった」「それじゃあ鍵閉めて、僕たちも帰ろうか」「うん」図書室の戸締りを終えて、最後に扉の鍵を閉めると、私は陸斗くんと並んで廊下を歩く。そういえば、今日の昼休みにリマちゃんが陸斗くんに告白するって言ってたけど……どうだったんだろう?陸斗くん、OKしたのかな?「そういや希空ちゃん。最近、弟とはどう?」「……」「おーい、希空ちゃん!」「えっ。あっ、はい!」しまった。つい考え込んで、ボーッとしてしまってた。「希空ちゃん、大丈夫?」「うん。大丈夫だよ、ごめんね。それで陸斗くん、話って……」「ああ、うん。希空ちゃん、この前みたいに海斗に、キツく言われたりしてないかなと思って」気にかけてくれるなんて、陸斗くんは優しいな。「もし、海斗にまた何か嫌なこととか言われたら、僕に言ってね?」「ありがとう。最近は大丈夫だよ」相楽くんには、今も変わらずちょっかいを出されることはあるけれど。この前みたいに、キツく睨まれるとかはないから。「そっか。それなら良かった」陸斗くんが、私にニッコリと微笑んでくれる。もし、陸斗くんに彼女ができたら……こんなふうに、笑いかけてもらうことはなくなるのかな。「ああ見えて、海斗も悪気はないだろうからさ。希空ちゃんにはあいつのこと、嫌いにならないでやって欲しいな」「……相楽くんのこと、嫌いにはならないよ」だって相楽くんは、陸斗くんの……私の好きな人の大切な弟だから。「希空ちゃんは優しいね」「いや、そんな。私は、陸斗くんほどでも……」「ありがとう、希空ちゃん」陸斗くんが、私の肩にぽんと手を置く。「そうだ。僕、一昨日発売された東谷先生の新刊を買ったんだけど。面白くて、1日で読んでしまったよ」もし、陸斗くんに彼女ができたら……こんなふうに、二人で並んで歩くこともなくなるのかな?「……希空ちゃん?」急に廊下で立ち止まった私を見て、陸斗くんが首を傾げ
Last Updated: 2025-04-11
Chapter: 第6話
ゴールデンウィークが明けた、ある日の学校の休み時間。「うわ、それマジで!?」誰かの声が廊下に響いて、私の耳はピクッと反応する。教室の開いた窓のほうに目をやると、友達と笑いながら廊下を歩いている陸斗くんが見えた。笑うとくしゃっとなる笑顔、可愛いな。私は自分の席に座りながら、陸斗くんの姿を眺める。「それでさぁ……ってちょっと、希空!あたしの話聞いてる?」「え!?あっ、うん。もちろん聞いてるよ」私は香澄ちゃんに、ニッコリと微笑んでみせる。「うそ、絶対聞いてなかったでしょう!だって希空、今陸斗くんのほうを一直線で見てたじゃない」う、香澄ちゃんにはバレてたか。「まったく希空ったら。話を聞いてないなら聞いてないって、はっきり言ってよね」香澄ちゃんが、ほっぺをぷくっと膨らませる。「ていうかさ、希空もあたしの話そっちのけでじっと見ちゃうくらい陸斗くんのことが好きなら、いい加減告白しちゃえばいいのに」「えぇ!こっ、告白!?」いきなり何を言いだすの、香澄ちゃん!「告白なんてそんなの、むっ、無理に決まってるじゃない!」私は、ブンブンと手をふる。「それに、もし仮に告白したとしても振られるのが目に見えてるよ」だって陸斗くんは、全校女子憧れの王子様だし。「そんなの、告白してみなきゃ分からないよ。だって陸斗くん、希空に会うといつも挨拶してくれるし。この前だって、希空にブレザー貸してくれたんでしょう?これは、脈アリだと思うけどなぁ」そう……なのかな?「えっ!リマちゃん、今日の昼休みに陸斗くんに告白するの!?」すると突然、女の子たちの大きな声が聞こえてきた。「ちょっと、みんな!声が大きいよ」そちらに目をやると唇に人差し指を当てて、「しーっ」と言うクラスメイトのリマちゃんが見えた。「リマなら、きっといけるよ!」「そうそう。可愛いリマなら大丈夫!」「そうかなぁ?」友達に激励され頬を赤く染めるリマちゃんは、女の私から見ても可愛い。リマちゃんは学年一可愛いと言われている女の子で、男子からも人気がある。そんな子が、陸斗くんのことを好きだなんて。私に勝ち目なんてないんじゃ……?「相楽兄弟、大人気だね。希空もうかうかしてたら、そのうち誰かに取られちゃうかもよ?」「だよね……」実際、陸斗くんは毎日たくさんの女の子から告白されている。「告白するも
Last Updated: 2025-04-09
Chapter: 第5話
背後から耳馴染みのある声がし、後ろを振り返ると。……!私の真後ろに、陸斗くんが立っていた。「りっ、陸斗くん!」うそ。いつの間に来ていたの!?「希空ちゃん、ごめんね?来るのが遅くなっちゃって」間近でふわりと清潔感に満ちた香りがして、胸がドキッと跳ねる。「それで、どの本を取りたいの?これ?」スッと背後から書棚へと伸びてきた腕が、私の右の肩をわずかに掠める。「そ、その右隣の本を……」私が言うと、陸斗くんは後ろから私に覆いかぶさるかのような体勢で、書棚から目的の本を抜きとった。り、陸斗くん、距離が近すぎるよ……!お陰で心臓が、ばっくんばっくん鳴ってやばい。「はい、どうぞ」「あっ、ありがとう」「あれ?希空ちゃん、何だか顔が赤いよ?」「えっ!?」「……顔が真っ赤な希空ちゃんも可愛い」陸斗くんに耳元で吐息混じりに囁かれ、背筋がゾクリとする。「ちなみに、僕もその本読んだけど面白かったよ。オススメ」「わあ。陸斗くんのオススメなら、絶対読みたい。さっそく借りて読んでみるね」「うん。それじゃあ、委員会の仕事頑張ろうか」そう言って陸斗くんは、返却された本を手にする。「書棚の高いところは、僕がやるから」「ありがとう」それから私たちは、しばらく黙々と作業をしていたのだけど。「……くしゅん」その沈黙を破ったのは、私のくしゃみだった。今日の日中は夏のように暑かったから、ブレザーを脱いでブラウスのみで作業をしていた私。夕方になって、冷えてきたのかな。「……くしゅんっ」またもや、くしゃみが出てしまった。好きな人のそばでこう何度もくしゃみをするのは、ちょっと恥ずかしいかも。ちなみにブレザーは、教室に置いたままで手元にない。「希空ちゃん。良かったらこれ、着てて」陸斗くんは自分のブレザーを脱ぎ、私の肩にふわりとかけてくれた。「えっ、でも悪いよ。陸斗くんも寒いでしょう?」「僕は平気。希空ちゃんが風邪でもひいたら、大変だから。僕のことは気にしないで?ねっ」陸斗くんの優しさに、胸がキュンと鳴る。「ありがとう、陸斗くん」ここは陸斗くんのお言葉に甘えて、私はブレザーをこのまま借りておくことにした。陸斗くんのブレザーは私にはブカブカだけど、すごく温かい。まるで、陸斗くんに包みこまれているみたい。そして私たちは、図書委員の仕事を再開させた。
Last Updated: 2025-04-07
Chapter: 第4話
整った顔に見つめられ、否応なしにドキドキしていると、相楽くんの手が再びこちらへと伸びてきた。──するっ。「え!?」なぜか相楽くんは、私のポニーテールのヘアゴムを外した。「さっ、相楽くん!?」ちょっと!どうして外すの!?朝から、せっかく頑張って結んだのに。「返して!」私がヘアゴムを取り返そうと手を伸ばすと、ゴムを遠ざけられてしまう。「これは、俺が預かっとく。小嶋、今日からポニーテールにするの禁止な」「はい!?」一方的にそれだけ言うと、相楽くんは席を立ち教室を出ていってしまった。ヘアゴムを取られた上に、ポニーテールにするの禁止って……。どうしてそんなことを言うの?どうして意地悪するの?相楽くん、意味分かんないよ。ほんとに双子?って思ってしまうくらい、陸斗くんとは正反対だ──。◇あれから1週間が経ち、校庭の桜の木は花びらが散り、鮮やかな緑色の葉をつけた。「最近、陸斗くんとはどうなの?」お昼休み。友達の栗山香澄(くりやまかすみ)ちゃんが、玉子焼きを口にしながら聞いてきた。私は今、香澄ちゃんと教室で机を向かい合わせにして、お弁当を食べている。「んー、最近はあまり話せてない……かな」陸斗くんとは、朝会ったら挨拶を交わすくらいで、それ以上の進展はない。それだけでも私は、十分なんだけど。「まぁ、今は陸斗くん隣のクラスだもんね」「うん。でもね、今日の放課後に図書委員会の当番があるから。陸斗くんに会えるんだ」今年も奇跡的に、陸斗くんと同じ図書委員になれた私。隣のクラスの陸斗くんと一緒の当番になったから、会える!「希空、嬉しそうな顔してるね。で?海斗くんのほうはどうなの?」「ぶっ!」香澄ちゃんに聞かれて、私は口の中にあったウインナーを吹き出しそうになってしまった。「なっ、な、なんで相楽くんの名前が出てくるの?!」「あれ?ふたりは、仲良いんじゃなかったの?」「なっ、仲良くなんかないよ」チラッと相楽くんのほうに目をやると、彼は教室の窓際でパンを食べている。「キャー、海斗くーん」「パンを食べてる姿もかっこいい〜」食事中でもファンの子にキャーキャー言われていて、ちょっと迷惑そう。ていうか相楽くんは、出席番号順でたまたま席が私の後ろっていうだけなのに。香澄ちゃん、私たちの一体どこを見て、仲良いなんて思ったの?そもそも相楽くんが
Last Updated: 2025-04-03
芸能人の幼なじみと、ナイショで同居しています

芸能人の幼なじみと、ナイショで同居しています

萌果は小学生の頃、弟のように可愛がっていた幼なじみの藍に告白されるも、振ってしまう。 その後、萌果は父の転勤で九州に引っ越すが、高校2年生の春、再び東京に戻ってくる。 萌果は家の都合でしばらくの間、幼なじみの藍の家で同居することになるが、5年ぶりに再会した藍はイケメンに成長し、超人気モデルになっていた。 再会早々に萌果は藍にキスをされ、今も萌果のことが好きだと告白される。 さらに「絶対に俺のこと、好きにさせてみせるから」と宣言されて……? 「ねえ、萌果ちゃん。俺も男だってこと、ちゃんと分かってる?」  芸能人の幼なじみと、秘密の同居ラブストーリー。
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Chapter: 第42話
慌てて教室を出たのは良いけど。どこで食べようかな。いつもは、柚子ちゃんと一緒だったから。廊下を歩いていると、芸能科の教室の前にさしかかった。藍、いるかな?ふと頭に浮かんだのは、藍の顔。ちらっとA組の教室のほうに目をやるも、扉の前は相変わらず、芸能科の人たちを見物に来た生徒でいっぱいだった。まあ、良いか。藍には、家に帰ったら会えるし……いや、確かに会えるのは会えるけど。私は、歩いていた足を止める。藍が自分で制服のネクタイを結んできたあの朝以来、私はここ数日、なぜか藍に避けられているんだった。家で『おはよう』や『おやすみ』の声かけは、お互い変わらずしてるけど……それだけだ。朝、藍は制服のネクタイを結んでと、私に言ってこなくなったし。私に抱きついたり、甘えてくることもなくなったから。どうして急にそうなったのか、理由は分からないけど。もしかして無意識のうちに、藍に嫌われるようなことをしてしまったのかな?ふと廊下の窓に目をやると、外は雲ひとつない青空が広がっている。今日は天気もいいから、お昼は外で食べようかな。外で食べたほうが、気分も上がるだろうし。そう思った私は、転校してきてから一度も行ったことのなかった屋上に行ってみることにした。階段をのぼり、屋上へと続く扉を開けると……目の前にいきなり飛び込んできたのは、一組のカップル。──え?「はい、和真(かずま)くん。あーん」「あーん」扉を開けてすぐ先にあるベンチには、ポニーテールの女の子と銀髪の男の子が座っていて、仲良くお弁当を食べさせあっている。さらに、『和真くん』と呼ばれた銀髪さんの隣のベンチには、よく見知った顔……藍の姿があった。「ねえ、藍く〜ん」しかも藍の隣には、金色に近い茶髪の女の子が、ピタッと隙間なくくっついている。あれ?藍の隣にいる女の子、どこかで見たことがあるような……そうだ。あの子、人気モデルのレイラちゃんだ。レイラちゃんは、手足が長くてお人形さんみたいに可愛いと、女子高生の間で大人気のファッションモデル。最近は、テレビのバラエティ番組で見かけることも増えた。「ほら。藍くんも、口開けなよぉ」「俺は、いい」「えー?そんなこと言わないでよ。あたし、藍くんのためにお弁当、一生懸命作ってきたんだからぁ」レイラちゃんが、自分の細い腕を藍の腕にそっと絡めた。「……っ」そ
Last Updated: 2025-04-16
Chapter: 第41話
その日の夜。「ただいまー」20時を過ぎた頃。先にひとりで夕飯を済ませ、私がリビングでテレビを観ていると、藍が帰ってきた。「おかえり、藍。お仕事、お疲れさま」「ありがとう」「燈子さんはまだ帰ってないんだけど、先にご飯食べる?燈子さんが、カレーを作り置きしてくれていたから。もし食べるなら、温めるよ?」「あー……俺、まだ少しやることがあるから。夕飯はあとでいいよ」それだけ言うと、藍は二階の自分の部屋へと行ってしまった。あれ?いつもの藍なら『それじゃあ、お願いしようかなー?』とか、『ご飯よりも先に、萌果ちゃんを抱きしめさせて』とか言いそうなのに。珍しいこともあるもんだな。**翌朝。「おはよう、藍」私は食卓にやって来た藍に、声をかける。「おはよう、萌果ちゃん」こちらを見てニコッと微笑んでくれた藍にホッとするも、ある違和感が。「あれ、藍。そのネクタイ、自分で結んだの?」「ああ、うん」藍はいつも、制服のネクタイを首にぶら下げたまま、2階から1階に降りてくることがほとんどだから。藍が自分でネクタイを結ぶなんて、かなり稀だ。というよりも、ここで居候させてもらうようになってからは、私が毎朝藍のネクタイを結んであげていたから。こんなことは、初めてかも。藍ってば、一体どういう風の吹き回し?今は4月の終わりだけど、もしかして雪でも降るの?「萌果ちゃん、ネクタイ曲がってないかな?」「大丈夫。ちゃんとできてるよ」「そっか。良かった」藍は微笑むと食卓につき、朝食のフレンチトーストを食べ始める。藍が自分で自分のことをやってくれるのは、“お姉ちゃん”としては嬉しいはずなのに。なぜか少し、胸の辺りがモヤモヤした。**数日後。学校のお昼休み。今日は友達の柚子ちゃんが、風邪で欠席だ。「はぁ。今日は柚子ちゃんが休みだから、お昼ご飯は一人かあ」私が、自分の席でため息をついたとき。「かーじーまーさんっ!」陣内くんが、ニコニコと元気よく声をかけてきた。「梶間さん、今日はもしかしてぼっち飯?もし一人が寂しいなら、俺と一緒にお昼食べる?」空いている隣の柚子ちゃんの席に座り、こちらに顔を寄せてくる陣内くん。そんな彼から私は、慌てて体を後ろに反らせた。「いや、いい。陣内くんと食べるなら、ひとりで静かに食べたい」「えーっ。梶間さんったら、つれないなあ
Last Updated: 2025-04-15
Chapter: 第40話
もしかして、前に藍がお弁当を私のと間違って持って行ったときみたいに、先に連絡をくれてた?と思って自分のスマホを見てみるも、特にメッセージは来ていなかった。「うちのクラスに来たってことは、梶間さんに用だよね?おーい、梶間さーん!」「ひっ!?」三上さんに大声で名前を呼ばれて、私の肩がビクッと跳ねた。三上さんの声はよく通るからか、クラスメイトの何人かが、何事かと教室の扉付近をチラチラと見ている。お願いだから、三上さん。そんなに大きな声を出さないで。あそこにいる“佐藤くん”が、モデルの久住藍だって、もし誰かにバレたら……。「ねえ、萌果ちゃん。三上さんが呼んでるよ?」「あっ、うん」呼ばれたら、行かないわけにもいかないよね。「ごめん、柚子ちゃん。私、ちょっと行ってくるね」話している途中だった柚子ちゃんに断りを入れると、私は急いで藍の元へと向かった。「ありがとう、三上さん……佐藤くん、ちょっとこっちに来て」私は呼んでくれた三上さんにお礼を言うと、藍の腕を掴んで人気のない廊下の隅までグイグイ引っ張っていく。「萌果ちゃん!?」「もう。藍ったら、予告もなくいきなり私のクラスに来ないでよ」私はキョロキョロと辺りに人がいないことを確認し、藍の耳元に口を近づける。「藍は芸能人なんだから。もっと自覚を持って?」「ごめん。だけど、この前のお弁当のときとは違って、今日はちゃんと変装してきたよ?」「それは、そうだけど……」叱られた子どもみたいに、しゅんとした様子の藍を見ていると、これ以上は何も言えなくなってしまう。「それで藍、私に何か用?」「ああ、うん。これを、萌果ちゃんに渡そうと思って来たんだよ」藍が私に差し出したのは、家の鍵だった。「母さん、今日は親戚の家に出かけるから帰りが遅くなるらしくて。俺もこのあと雑誌の撮影があって、すぐには帰れないから。萌果ちゃんに合鍵を渡してって、母さんに頼まれてさ」そうだったんだ。今朝は藍よりも、私が先に家を出たから。「わざわざ、届けてくれてありがとう」私は、藍から合鍵を受け取る。「萌果ちゃん。その鍵、くれぐれも落としたり、なくさないでよね?」「なっ、なくさないよ!もう子どもじゃないんだから」「ふーん。どうだろうねえ」マスクをしていて、口元は見えないけど。藍が今、ニヤニヤしているであろうことは容易に分かる
Last Updated: 2025-04-14
Chapter: 第39話
そしてやって来た、夕飯の時間。「はあ。こんなことってあるのかよ……」食卓についた藍が、ガクッと肩を落とす。「藍ったら、なんて顔をしてるのよ。もっとシャキッとしなさい、シャキッと!」燈子さんが藍に、喝を入れる。「だって……」藍が、ひとり項垂れる。今日の夕飯はなんと、ポトフだった。カレーでもなく、肉じゃがでもなかった。「ふふ。この勝負は引き分けだね、藍」「くっそー。せっかく萌果から、キスしてもらえると思ってたのに」藍は、いただきますもそこそこに、スプーンを手にポトフを口へと運ぶ。「母さん、なんでカレーにしてくれなかったんだよ。じゃがいもに人参、玉ねぎといったら普通カレーだろ?」「あら。藍ったら、そんなにカレーが食べたかったの?だったら、明日カレーにしてあげるわ」「明日じゃダメなんだよ」ブツブツ言いながら、食べ進める藍。藍には悪いけど、この結果に私はホッと一安心。だって、いくら相手が幼なじみでも、自分からキスするのはやっぱり照れくさいから。「今日は、せっかく萌果ちゃんが作るのを手伝ってくれたっていうのに。文句があるなら、ポトフ無理に食べなくてもいいのよ?藍」「えっ、萌果が?食べます、喜んで食べます。今日はいつも以上にご飯が美味しいと思ったら、萌果ちゃんが……」藍の食べるスピードが、一気に加速した。「美味いよ、萌果ちゃん」「私は、ほんの少し手伝っただけだけどね」「それでも、萌果ちゃん天才!」「藍ったら、単純なんだから。藍は昔から本当に、萌果ちゃんのことが好きなのね」藍を見て少し呆れつつも、燈子さんが優しく微笑む。「うん、好きだよ」藍は、迷いもなくハッキリと言い切った。「俺は、小さい頃から今もずっと、萌果のことが好きだから」「っ……」私の頬が、ぶわっと熱くなっていく。藍ったら、燈子さんのいる前でそんなことを言われたら、反応に困っちゃうよ。「だから、今度は萌果ちゃんから俺にキスしたいって思ってもらえるように、俺も頑張るよ」なぜか、改めて宣言されてしまった私。藍は私にとって、大切な幼なじみで。異性としても、嫌いではないけれど。私が藍に自分からキスしたいと思える日なんて、やって来るのかな?**数日後。学校の休み時間。私は、いつものように柚子ちゃんと楽しくおしゃべりしていた。「あれ?あなた、もしかして佐藤くん?
Last Updated: 2025-04-13
Chapter: 第38話
私はとっさに藍の前に立ち、藍の姿を安井さんから隠した。「梶間さん?」「や、やだな〜、安井さんったら。あのイケメンモデルの久住藍が、学校帰りにこんなところにいる訳ないじゃない!」うう。我ながら、苦しい言い訳だけど。「この子は、佐藤くん。私の幼なじみなんだ。彼とは家が近所だから、たまたまそこで会って……それで、一緒に買い物に来たの」「……どうも。佐藤です」今まで黙っていた藍が、ペコッと頭を下げた。「まあ、梶間さんに言われてみれば、確かにそっか。あの藍くんが、学校帰りにスーパーに買い物なんて来ないよね」安井さんが、納得したように頷く。「そうそう。あの無愛想で、いかにも家事なんてやりません!って感じの久住藍くんが……痛あっ」「ど、どうしたの?梶間さん!?」「〜っ」私は隣にいる藍に、右手を思いきりつねられてしまった。「すいません。俺たち、まだ買い物の途中なので。ほら萌果ちゃん、行くよ」藍はいつもよりもワントーン低い声で言うと、私の手を取って早足で歩き出した。「ちょっと、藍……!」私は、三上さんたちの姿が完全に見えなくなってから藍に声をかける。「いきなり手をつねるなんて、ひどいよ!」「それは、ほんとごめん」人気のないところで立ち止まると、藍がさっきつねった私の右手を、そっとさすってくる。「でも、俺も悪かったけど……萌果ちゃんだって悪いんだからね?」「え?」「俺のことを、佐藤くんって呼んだり。あの子たちの前で、俺の悪口なんて言うから」「あ、あれは、藍だってバレないようにするために仕方なく……」「それでも、萌果ちゃんに無愛想だとか悪いように言われたら、やっぱり悲しいよ」「ご、ごめん」藍のことを悪く言うつもりは、全くなかったんだけど。私も必死だったとはいえ、『あの無愛想で、いかにも家事なんてやりません!って感じの久住藍くん』って言ったのは、さすがにまずかったな。「ごめんね?藍」「謝っても、許してあげない」今日の藍、なんだか機嫌が悪いな。「どうしたら、許してくれるの?」私が尋ねると、藍の目が一瞬光ったような気がした。「んー、そうだな……萌果ちゃんが、俺にキスしてくれたら許す」「えっ!?」キスって!藍ったら、今度は何を言い出すの!?「萌果ちゃんがウチに引っ越してきた日に、俺が頬にグーパンチされたときも、結局キスしてく
Last Updated: 2025-04-12
Chapter: 第37話
数日後の放課後。学校が終わって家に帰ろうと校門に向かって歩いていると、私のスマホが鳴った。確認すると、それは燈子さんからのメッセージだった。【悪いんだけど、学校帰りにスーパーに寄ってきてもらってもいい?これから家に急遽お客さんが来るから、夕飯の買い物に行けそうにないのよ】お客さん……そういうことなら。【分かりました。私でお役に立てるのなら、喜んで!】橙子さんに返信すると、私はそのまま家の最寄りのスーパーへと直行する。学校から歩いて15分ほどで、スーパーに到着。買い物カゴを手に、私がスーパーに入ろうとしたとき。「萌果ちゃん!」誰かに名前を呼ばれて振り向くと、メガネに黒のマスク姿の藍が立っていた。外にいるため、一応変装しているらしい。「えっ。どうして藍がここに……」「さっきの母さんのメッセージ、俺に送るつもりが間違えて萌果ちゃんに送ってしまったんだってさ」「そうだったんだ。それで、わざわざ来てくれたの?」「うん。本来なら俺が任されるはずだった、おつかいだし。あっ、そのカゴ俺が持つよ」藍が、私が持っていた買い物カゴを、横から奪うように取った。私と藍は、二人並んで店内を歩く。「ここのスーパー、小学生の頃にも萌果ちゃんと二人で、おつかいに来たことがあったよね」「そういえば、そうだね」懐かしいなぁ。当時のことが蘇り、私は目を細める。「それで、何を買えば良いの?」「えっと。燈子さんからのメッセージに書いてあったのは、じゃがいもと人参に玉ねぎ……」「それなら、今夜はカレーかな?」「いや、もしかしたら肉じゃがの可能性もあるよ?」藍と、話しながら歩いていると。「あれ?もしかして、梶間さん?」背後から、声をかけられた。振り返ると、そこに立っていたのは……「やっぱり、梶間さんだ!」私と同じクラスの三上さんと、その友達の安井(やすい)さんだった。三上さんは、私が転校してきて間もない頃にクラスの親睦会でカラオケに一緒に行ってから、学校でもたまに話すようになったのだけど。まさか、こんなところでバッタリ会っちゃうなんて!「もしかして梶間さんも、おうちの人のおつかい?」「う、うん。そうなんだ。ということは、三上さんたちも?」「あたしは、カナエの買い物の付き合いだよ」『カナエ』とは、安井さんの下の名前。「ところで、梶間さんの隣にいる人
Last Updated: 2025-04-11
この度、元カレが義兄になりました

この度、元カレが義兄になりました

高校生の陽菜は、中学の頃に付き合っていた元カレ・伊月のことが今も忘れられないでいる。 ある日、陽菜の母が再婚することに。しかし、母の再婚相手との顔合わせの日に再婚相手と共にやって来たのはなんと、元カレの伊月だった! 親同士の再婚で、陽菜は伊月の家で暮らすことになるが、同居初日に陽菜は伊月から「親の前でだけ仲良くすれば良い」と言われてしまう。 それでも、陽菜がピンチのときには助けてくれたりと、何だかんだ優しい伊月に陽菜はますます惹かれていくけれど……。 「俺は陽菜のこと、妹だなんて思ったことない」 義兄になった元カレと、甘く切ないラブストーリー。
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Chapter: 第5話
「光佑さん、私は結婚に賛成です。これから母のことを、どうぞよろしくお願いします」私は光佑さんに向かって、深々と頭を下げた。今日光佑さんと話してみて、どことなくお父さんと似た雰囲気の優しい光佑さんなら、お母さんを任せられるって思ったから。「俺も……二人の結婚には賛成だよ。父さんには、幸せになって欲しいから」佐野くんも賛成なんだ。良かった……!「ありがとう、二人とも」「ありがとう、陽菜。伊月くんもありがとうね」「……いえ」ニコッと微笑んだ私のお母さんから、照れくさそうに視線を逸らす佐野くん。佐野くんは、ずっと無言だったから。もしかして、結婚には反対なのかと思ったりもしたけど。佐野くんも、二人の結婚に賛成してくれて本当に良かった。「それでね、陽菜。光佑さんと、前から二人で話していたことがあるんだけど……」ん?話していたことって、何だろう?**数週間後の3月下旬。高校1年の春休み、私はお母さんと一緒に佐野家にやって来た。先日、ホテルでの初めての顔合わせのとき、お母さんが言っていた『光佑さんと前から二人で話していたこと』それは、二人が入籍する前にお試しで一緒に住んでみようということだった。そして春休みのこの日、私はお母さんと佐野くんの家に引っ越してきたという訳だ。私は今、マンションから持ってきた荷物を家の中に運んでいるところ。初めて来た佐野くんの家は、大きな一軒家で。広いお庭には、色とりどりの花が咲いている。「菊池さん、貸して。重いものは、俺が運ぶから」佐野くんが、フラフラしながら運んでいた私の手からダンボールを取った。「あ、ありがとう」運んでくれるなんて、佐野くんはやっぱり優しいな。「いいよ。それより……」佐野くんの唇が、私の耳元に近づく。一体何を言われるのだろうと、身構えていると。「あのさ、分かってると思うけど……俺たちが中学の頃に付き合っていたことは、父さんたちには絶対に言うなよ」氷のように冷たい佐野くんの声に、私の背筋がヒヤリとする。「う、うん。もちろん!これまでもこれからも、親には言わないよ」「そう。なら良いけど」自分の言いたいことを言うだけ言うと、佐野くんはダンボールを持ってさっさと歩いていってしまう。ああ……まさか、親の再婚で元カレの佐野くんと一緒に住むことになるなんて。全く思ってもみなかった。これ
Last Updated: 2025-04-16
Chapter: 第4話
「は?なんで、菊池さんがここに……」互いに指をさし、目を見開く私と佐野くん。「えっ。もしかしてあなたたち、知り合いなの?」「う、うん。同じ高校のクラスメイト……」私はお母さんに、正直に答える。まさか、佐野くんが来るなんて……どういう展開?それから再び、4人掛けのテーブル席にお母さんと並んで座るも、心臓のドキドキはなかなか治まらない。だって私の目の前には、仏頂面の佐野くんが座っているんだもの。「初めまして、陽菜ちゃん。僕は、佐野光佑といいます。そして、こっちは息子の伊月」「……」光佑さんに紹介されるも、佐野くんは黙って窓の外を見つめているだけ。「はっ、初めまして、陽菜です。いつも母がお世話になってます」私は立ち上がり、光佑さんと佐野くんに向かって軽く頭を下げた。「それにしても驚いたわ。まさか陽菜と伊月くんが、同じ高校のクラスメイトだったなんて。すごい偶然ね〜」「本当だね。誕生日は伊月のほうが先だから、お兄ちゃんかな?」そうか。お母さんたちが結婚するってことは、佐野くんが私のお兄ちゃんになるんだ。何日か前に、ほんの少しでも佐野くんに近づけたら良いのになとは思ったけど。まさか、元カレが義理の兄になるだなんて……そんなことあるの!?「翔子さん。もしかしたら、運命って本当にあるのかもしれないね」「やだわ、光佑さんったら。子どもたちの前で、恥ずかしい……」ふふ。お母さん、嬉しそうだなあ。光佑さんと笑顔で話すお母さんを見て、私は目を細める。それからコーヒーや紅茶を注文して、待っている間みんなで他愛もない話をした。お母さんと光佑さんの出会いから、私と佐野くんの学校の話など。といっても、佐野くんは終始無言だったから。ほとんど3人で話していたのだけど。光佑さんは、今日会うのが初めてだとは思えないくらいに、すごく話しやすくて。お母さんのことを、とても大切に思ってくれているんだってことが会話から伝わってきた。「陽菜ちゃん、伊月。僕は、翔子さんと一緒になりたいと思ってる。だけど、もし陽菜ちゃんや伊月が嫌っていうのなら……」真剣な面持ちの光佑さんの言葉に、私は向かいに座る佐野くんをちらっと見る。佐野くんは、二人の結婚をどう思っているのか分からないけど。お父さんが亡くなってからのこの10年間、お母さんは朝から晩まで働いて、ご飯も毎日作ってく
Last Updated: 2025-04-16
Chapter: 第3話
放課後。「ただいま〜」「あっ。おかえり、陽菜」帰宅すると、玄関でお母さんが出迎えてくれた。「あれ?お母さん、今日はお仕事は休みだったの?」「ええ。だから、陽菜に大事な話があるって言ってたでしょう?」あっ。そういえば!──『あのね、陽菜。今日、あなたに大事な話があるから。学校が終わったら、なるべく早く帰ってきてくれる?』今朝のお母さんとの会話が、私の頭に浮かんだ。制服から私服に着替えると、私はリビングでお母さんと向かい合って座る。「それで?大事な話ってなに?」テーブルを挟んで目の前に座るお母さんは、いつになく真剣な面持ちだ。「あのね。実はお母さん……再婚しようと思ってるの」「えっ、再婚!?」思いもよらぬ言葉に、私は目を丸くする。我が家は、私が6歳の頃にお父さんが病気で亡くなってから、母と子の二人暮らし。今まで10年間、お母さんが女手一つで私を育ててきてくれた。最近のお母さんは、前よりも楽しそうだから。なんとなく、交際している人がいるんだろうなとは思っていたけど……それでも、びっくりだよ。「相手は今の職場の上司なんだけど、とっても優しい人でね。陽菜さえ良かったら、一度光佑(こうすけ)さんに会ってみて欲しいんだけど……どうかな?」お母さんが付き合ってる人、光佑さんっていうんだ。お母さんが選んだ人なら、きっと良い人に違いない。「うん。私も、光佑さんに会ってみたい!」「それじゃあ、さっそく光佑さんにも伝えておくわね」お母さんの彼氏さんって、一体どんな人なんだろう……?**ドキドキしながら、迎えた週末。私は、お母さんの交際相手との顔合わせのため、自宅近くのホテル内にある、オシャレなレストランにやって来た。スタッフの人に案内された席で私がお母さんと座って待っていると、しばらくしてメガネにスーツ姿の、40代くらいの男性が駆けてきた。「翔子(しょうこ)さん!ごめん、待たせたね」「ううん。私たちも、今来たところだから」“翔子”とは、私のお母さんの名前。お母さんとともに席から立ち上がり、光佑さんの隣に立つ人を目にした瞬間、私は固まってしまう。だって、そこにいたのは……「……ええっ!?う、うそ。佐野くん!?」クラスメイトで元カレの、佐野くんだったから。
Last Updated: 2025-04-16
Chapter: 第2話
わわ、どうしよう。慌てふためく私だったけど、交わった視線はすぐに、佐野くんのほうから逸らされてしまった。……だよね、逸らすよね。分かっていたことだけど、私の胸は針が刺さったようにチクチクと痛む。私と付き合っていた頃の佐野くんは、何だか苦しそうだったし。きっと彼はもう、私とは関わりたくないはず。まだ痛む胸の辺りをギュッと掴むと、私は自分の席へと向かった。**「おい、菊池。ちょっと良いか?」数学の授業のあと、私は教科担当の先生から声をかけられた。「悪いけどこれ、職員室まで持って行ってくれないか?」先生が言った“これ”とは、先ほど授業で回収した、クラス全員分の課題プリント。「先生このあと用があるから、頼んだぞ」私が返事するよりも早く、先生は強引にプリントの束を私に渡してきた。こうなったら、持って行かない訳にはいかなくて。私は、3階の教室から1階の職員室までプリントを持っていくことにした。階段をおりて廊下を歩き、ようやく職員室に到着。──ガラッ!私が職員室の扉を開けたとき、ちょうど扉の先に立っていた人と、思いきりぶつかってしまった。「きゃっ……!」その拍子に足元がふらつき、持っていたプリントが宙を舞う。「危ない!」転びかけた私の身体を、目の前のしっかりとした腕が支えてくれた。だっ、誰……?恐る恐る相手の顔を見上げて、息をのんだ。私がぶつかった人はなんと、佐野くんだったから。「ごごご、ごめんなさいっ!」慌てて彼から体を離してどうにか謝るも、私は佐野くんの目を見られず、うつむいてしまう。佐野くんと付き合っていたときは、緊張して上手く話せなかったけど。別れて2年になる今でも、佐野くんと話すときは目を見れないし、緊張してしまうんだ。「……はい」先ほどぶつかった拍子に床に散らばったプリント数枚を、佐野くんが拾って渡してくれる。「あっ、ありがとう」私は視線を彼から逸らしたままプリントを受け取り、何とかお礼を告げた。「……別に」無表情でそれだけ言うと、佐野くんはスタスタと歩いていく。佐野くん……そっけないけど、プリントを拾ってくれたりして、何だかんだ優しいな。私は、歩いていく佐野くんの背中を見つめる。中学の頃、クールな佐野くんが笑顔で楽しそうにバスケするところを見て一目惚れして以来、ずっと彼が好きだった。未練がましい
Last Updated: 2025-04-15
Chapter: 第1話
『俺、菊池さんのことが好きなんだ』中学2年生の1月。初雪が降った日の放課後。誰もいない教室で私・菊池陽菜(きくちひな)は、ずっと好きだった同級生の佐野伊月(さのいつき)くんに告白された。『菊池さんが良ければ、俺と付き合ってくれないか?』『……っ、はい。よろしくお願いします』私の返事は、もちろんOK。憧れの佐野くんと両想いだなんて、泣きそうなくらいに嬉しかった。だけど……幸せは、長くは続かなかった。『……俺たち、別れようか』3月、校庭の桜の蕾が膨らみつつある頃。中学2年生が終わるのと同時に、私たちのお付き合いも終わりを迎えた。あれから2年。高校1年生になった今でも私は、密かに佐野くんのことを想い続けている。**3月中旬の、ある日の朝。「やばい。もう時間だ」時刻は、午前8時過ぎ。高校の制服姿の私はスクールバッグを肩にかけ、慌てて自宅の玄関へと向かう。菊池陽菜、16歳。肩下までの黒髪ストレートヘア。身長150cmと小柄で童顔のせいか、実年齢よりも下に見られることが多い。「それじゃあ、お母さん。いってきま……」「あっ。ちょっと待って、陽菜」言いかけた『いってきます』は、お母さんに途中で遮られてしまった。「何?」「あのね、陽菜。今日、あなたに大事な話があるから。学校が終わったら、なるべく早く帰ってきてくれる?」「……?うん、分かった。それじゃあ、行ってきます」大事な話って何だろう?と首を傾げながら、私は走って家を出た。私が通う高校は、家から徒歩20分ほどのところにある。「はぁ、はぁ……っ」どこまでも晴れ渡る空の下を、私は全速力で駆け抜ける。時折ふわりと頬を掠める風は温かく、近くの土手に咲く濃いピンク色に染まる河津桜は、ちょうど見頃を迎えた。冬が終わってやって来た春を、全身で堪能したいところだけど。学校に遅刻しそうな私は、ただひたすら通学路を走り続けた。**ふう……いつもよりも家を出るのが少し遅くなったけど、何とか予鈴までに間に合った。「佐野くん、おはよぉ」私が1年4組の教室に入ると、アニメのキャラクターのような、可愛らしい女の子の声が聞こえてきた。そちらに目をやると、窓際の一番後ろの佐野くんの席の周りにだけ、やたらと人が集まっている。佐野くん、また今日も女の子に囲まれてるんだ。ほんと、よくモテるなぁ……。「ね
Last Updated: 2025-04-15
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