整った顔に見つめられ、否応なしにドキドキしていると、相楽くんの手が再びこちらへと伸びてきた。
──するっ。
「え!?」
なぜか相楽くんは、私のポニーテールのヘアゴムを外した。
「さっ、相楽くん!?」
ちょっと!どうして外すの!?朝から、せっかく頑張って結んだのに。
「返して!」
私がヘアゴムを取り返そうと手を伸ばすと、ゴムを遠ざけられてしまう。
「これは、俺が預かっとく。小嶋、今日からポニーテールにするの禁止な」
「はい!?」
一方的にそれだけ言うと、相楽くんは席を立ち教室を出ていってしまった。
ヘアゴムを取られた上に、ポニーテールにするの禁止って……。
どうしてそんなことを言うの?どうして意地悪するの?相楽くん、意味分かんないよ。
ほんとに双子?って思ってしまうくらい、陸斗くんとは正反対だ──。
◇
あれから1週間が経ち、校庭の桜の木は花びらが散り、鮮やかな緑色の葉をつけた。
「最近、陸斗くんとはどうなの?」
お昼休み。友達の栗山香澄(くりやまかすみ)ちゃんが、玉子焼きを口にしながら聞いてきた。
私は今、香澄ちゃんと教室で机を向かい合わせにして、お弁当を食べている。
「んー、最近はあまり話せてない……かな」
陸斗くんとは、朝会ったら挨拶を交わすくらいで、それ以上の進展はない。それだけでも私は、十分なんだけど。
「まぁ、今は陸斗くん隣のクラスだもんね」
「うん。でもね、今日の放課後に図書委員会の当番があるから。陸斗くんに会えるんだ」
今年も奇跡的に、陸斗くんと同じ図書委員になれた私。隣のクラスの陸斗くんと一緒の当番になったから、会える!
「希空、嬉しそうな顔してるね。で?海斗くんのほうはどうなの?」
「ぶっ!」
香澄ちゃんに聞かれて、私は口の中にあったウインナーを吹き出しそうになってしまった。
「なっ、な、なんで相楽くんの名前が出てくるの?!」
「あれ?ふたりは、仲良いんじゃなかったの?」
「なっ、仲良くなんかないよ」
チラッと相楽くんのほうに目をやると、彼は教室の窓際でパンを食べている。
「キャー、海斗くーん」
「パンを食べてる姿もかっこいい〜」
食事中でもファンの子にキャーキャー言われていて、ちょっと迷惑そう。
ていうか相楽くんは、出席番号順でたまたま席が私の後ろっていうだけなのに。香澄ちゃん、私たちの一体どこを見て、仲良いなんて思ったの?
そもそも相楽くんが一方的に、私にちょっかいをかけに来てるんだよ。
「希空も、あの人気者の相楽兄弟の弟に気に入られて、良いじゃん」
「良くないよ!ていうか、そもそも私のどこが気に入られてるの?嫌われてるの間違いじゃない?」
この前だって『ポニーテールにするの禁止な』って、訳の分からないことを言われたし。
私は、おろしたままのストレートの髪にそっと手を当てる。
「……なあ。それ、食わねえの?」
「え?」
突然耳元で声がして、肩がピクッと跳ねた。恐る恐る、声がしたほうに目をやると。
「えっ、相楽くん!?」
「それ、食わないならちょうだい」
「あっ、ちょっと……!」
いつの間にかそばに立っていた相楽くんに、私のお弁当の玉子焼きを取られてしまった。
「うん、美味い」
手で掴んで口に入れた玉子焼きを、頬張る相楽くん。
玉子焼きは好物だから、最後に食べようと思って残しておいたのに……!
「なあ。この玉子焼きって、もしかして小嶋が作ったの?」
「いや、お弁当はお母さんが……」
「ぷっ。だよなー」
私を見て、クスクスと笑う相楽くん。
『だよな』って、どういう意味!?しかも、そんなに笑って……どうせ私は、料理ができませんよーだ。
「ああ、美味かった。小嶋のお母さんにも、“玉子焼き美味かった”って伝えておいて?」
それだけ言うと、相楽くんは教室を出て行った。
勝手に玉子焼きを食べられたうえに、笑われて。
ムカつく!って、思ったけど……私も昔から大好きなお母さんの玉子焼きを、相楽くんにも『美味しかった』って思ってもらえたのだと思うと、なぜか悪い気はしなかった。
◇
放課後。私は今、図書室で返却本を書棚に戻す作業をしている。陸斗くんは、まだ来ていない。
図書室には誰かが時折、本のページを捲る音だけが響く。普段は利用客の少ない図書室の、静かな雰囲気が好きだ。
あ。あの本のタイトル……興味あるなあ。
私は、図書室の一番上の棚にある本が目についた。
こうして書棚の整理をしていると、たまに興味深い本と出会えることがある。
作業の途中だけど、ちょっとだけなら良いよね。
そう思った私は、書棚に手をのばす……が。と、届かない。
お目当ての単行本は、私の目線よりもかなり上のところにある。
こういうとき、身長が150cm弱の私はいつも苦労するんだ。
一生懸命背伸びして、手を伸ばすけれど。全然、本にかすりもしない。
面倒くさがってないで、いい加減離れたところにあるステップ台を、取ってこようと思ったとき。
「……どの本が欲しいの?」
えっ、この声は……。
私の通う高校には、アイドル並みに人気の双子の兄弟がいる。二人だけで、全校女子生徒のハートを鷲掴みにしてるんじゃないかってくらいの人気ぶり。私、小嶋希空(こじまのあ)も彼らのファンのうちの一人だ。お兄ちゃんである相楽陸斗(さがらりくと)くんは、少し癖のあるミルクティーブラウンの髪に、タレ目の二重の瞳と目元のほくろがチャームポイント。弟である相楽海斗(かいと)くんは、染めていないサラサラの黒髪に、涼やかな切れ長の二重の瞳が印象的。相楽兄弟は、双子でも顔は全然似ていないけど。兄弟そろって目だけでなく鼻も口も整っていて、少女漫画のヒーローにも負けないくらいのイケメンだ。おまけに成績も優秀で、陸斗くんはサッカー部、海斗くんはバスケ部で運動神経も抜群。そして、兄の陸斗くんは私の好きな人でもある。陸斗くんと初めて話した日のことは、今でも鮮明に覚えている。あれは、今からちょうど1年前のこと。高校に入学して間もない、4月のある日の放課後。私は、担任の先生から授業で回収したクラスメイト全員分のノートを、教室から職員室まで運ぶようにと頼まれた。「日直でもないのに、なんで私が……」『小嶋お前、暇そうだから』って、先生ひどくない?!そりゃあ今後部活に入る予定もないし、今日は学校が終わったら真っ直ぐ家に帰るだけだけど。入学して早々に雑用を頼まれるなんて、ついてない。「はぁ……」クラスメイト40人分のノートを胸の前で抱えると、無意識にため息がこぼれた。ていうかこれ、けっこう重い。その上、何冊ものノートを胸の前で抱えていると、目元が隠れてしまって足元がおぼつかない。私は、足元に気をつけながらゆっくりと階段をおりていたのだが。──ズルッ!「きゃっ」ふとした瞬間に足が滑り、体が大きく後ろにのけぞった。うそ。おっ、落ちる……!そう思ったときだった。「危ない!」私は、後ろから誰かに抱きしめられた。え!?「キミ、大丈夫?!」相手の人の両腕が、後ろからしっかりと私の腰にまわされている。誰かが、助けてくれたんだ。「はい、ありがとうございま……」私は、助けてくれた人にお礼を言おうと後ろを振り返った。だけど、最後まで言葉を発することができなかった。だって相手の男の子が、思わず息を飲むほどきれいな顔立ちをしていたから。︎︎︎︎︎︎「怪我はない?」
それから彼は、職員室まで一緒にノートを運んでくれた。「ど、どうもありがとう。相楽……くん」「ううん。僕は、ただ当然のことをしただけだよ。またね、小嶋さん」爽やかにヒラヒラと手を振ると、相楽くんは歩いていった。か、かっこいい……ていうか相楽くん、私の名前を覚えててくれたんだ。そんな小さなことすらも嬉しく思いながら、私は遠ざかっていく彼の背中をしばらく見つめていた。◇あの日を境に、相楽くんに恋をしてしまった私。多分、一目惚れだったんだと思う。それからしばらくして、相楽くんは双子だということが判明。あの日、私を助けてくれたのがお兄さんの陸斗くん。そして、海斗くんという弟が隣のクラスにいることを知った。学校中の女の子から大人気の、王子様的存在の陸斗くんに恋をしてしまった。地味な私なんて、到底手の届かない相手だと思っていたのだけど。あのあと、たまたま陸斗くんと同じ図書委員になった私は、委員会の仕事を一緒にするうちに陸斗くんと少しずつ仲良くなっていった。「希空ちゃん、おはよう」「おっ、おはよう。陸斗くん」そして現在、高校2年目の春。陸斗くんのことを想い始めてから、ちょうど1年。今ではお互いのことを、下の名前で呼ぶまでになれた。高校2年生になってクラスが離れてからも、朝学校で会うと、陸斗くんはいつも私に声をかけてくれる。人気者の陸斗くんから声をかけてもらえるなんて、夢みたい。陸斗くんに朝、笑顔で声をかけてもらえるだけで、とても幸せな気持ちになれるんだ。「ねぇ。そういえば、希空ちゃんはいつも髪おろしてるけど。結んだりはしないの?」「え?」ある日突然、私は陸斗くんにそんなことを聞かれた。「一度、髪結んでるところ見てみたいな」それだけ言うと、陸斗くんは友達と一緒に歩いていく。やばい、どうしよう。陸斗くんに『髪結んでるところ見てみたい』って、言われちゃった……!◇ああ、今日もかっこよかったなぁ、陸斗くん。『髪結んでるところ見てみたい』って、言われちゃったし。「おい、小嶋。何さっきからニヤニヤしてるんだよ」「あっ!」現在、数学の授業中。たった今、先生から返してもらったばかりの小テストの答案用紙を、後ろから誰かに取られてしまった。︎︎︎︎︎︎
「ふーん、50点」「ちょっ、見ないで!」私は、取られた答案を取り返そうとするが……。「ああっ」手を伸ばすと、ひょいと答案用紙を私の手の届かない高いところまで上げられてしまった。「相楽くん!」「小嶋がにやけてたから、どれだけ良い点をとったのかと思ったら……ふはっ」私の答案用紙を見て肩を震わせるのは、陸斗くんの双子の弟である、相楽海斗くん。高校2年のクラス替えで彼と同じクラスになり、なんと席も私の後ろになった。それ以来なぜか相楽くんは、私にちょっかいをかけたり、たまに嫌なことをしてくる。彼に目をつけられるようなことをした覚えは、ないんだけどな。◇翌朝。「よし、きれいに結べた」昨日、陸斗くんに『髪結んでるところ見てみたい』って言われたから。今日は、いつもよりも頑張って早起きして、髪を後頭部でひとつに結んでみた。ツインテールやお団子ヘアにしようか迷ったけど、ここは無難にポニーテール。何度か結びなおして、鏡で最終チェック。ふふ。陸斗くん、この髪型を見たらなんて言ってくれるかな?「希空ーっ。早く行かないと、遅れちゃうわよ」「いけない!」お母さんに声をかけられて洗面所の壁時計を見ると、いつも家を出る時間を少し過ぎていた。「いってきまーす」私は、慌てて家を飛び出した。「ふぅー」全力で家から駅まで走ったおかげで、ギリギリいつもの電車に間に合った。そして今、私は学校に到着し下駄箱で上履きに履き替えたところ。陸斗くん……いるかな?廊下に出て、コンパクトミラーで髪が整っているか確認していると。「キャー!陸斗く〜ん」「相楽くーん」複数の女の子の、黄色い声が聞こえてきた。そちらに目をやると、廊下で陸斗くんが何人かの女の子に囲まれていた。いっ、いたーっ!陸斗くんを目にした途端、ドキドキと胸が高鳴る。陸斗くん、私に気づいてくれるかな?でも、沢山の女の子に囲まれているから、多分こっちには気づいてくれないよね。そう思いながら、しばらく陸斗くんを見つめていると。ふとこちらを向いた陸斗くんと、パチッと目が合った。そして、私のことをじっと見てくる陸斗くん。きゃーっ。みっ、見られてる!?私が思わず、陸斗くんから目を逸らしそうになったとき。「希空ちゃん!」「え?」陸斗くんが、私の名前を呼ぶと。「今日の髪型……すっごく可愛い!」う
整った顔に見つめられ、否応なしにドキドキしていると、相楽くんの手が再びこちらへと伸びてきた。──するっ。「え!?」なぜか相楽くんは、私のポニーテールのヘアゴムを外した。「さっ、相楽くん!?」ちょっと!どうして外すの!?朝から、せっかく頑張って結んだのに。「返して!」私がヘアゴムを取り返そうと手を伸ばすと、ゴムを遠ざけられてしまう。「これは、俺が預かっとく。小嶋、今日からポニーテールにするの禁止な」「はい!?」一方的にそれだけ言うと、相楽くんは席を立ち教室を出ていってしまった。ヘアゴムを取られた上に、ポニーテールにするの禁止って……。どうしてそんなことを言うの?どうして意地悪するの?相楽くん、意味分かんないよ。ほんとに双子?って思ってしまうくらい、陸斗くんとは正反対だ──。◇あれから1週間が経ち、校庭の桜の木は花びらが散り、鮮やかな緑色の葉をつけた。「最近、陸斗くんとはどうなの?」お昼休み。友達の栗山香澄(くりやまかすみ)ちゃんが、玉子焼きを口にしながら聞いてきた。私は今、香澄ちゃんと教室で机を向かい合わせにして、お弁当を食べている。「んー、最近はあまり話せてない……かな」陸斗くんとは、朝会ったら挨拶を交わすくらいで、それ以上の進展はない。それだけでも私は、十分なんだけど。「まぁ、今は陸斗くん隣のクラスだもんね」「うん。でもね、今日の放課後に図書委員会の当番があるから。陸斗くんに会えるんだ」今年も奇跡的に、陸斗くんと同じ図書委員になれた私。隣のクラスの陸斗くんと一緒の当番になったから、会える!「希空、嬉しそうな顔してるね。で?海斗くんのほうはどうなの?」「ぶっ!」香澄ちゃんに聞かれて、私は口の中にあったウインナーを吹き出しそうになってしまった。「なっ、な、なんで相楽くんの名前が出てくるの?!」「あれ?ふたりは、仲良いんじゃなかったの?」「なっ、仲良くなんかないよ」チラッと相楽くんのほうに目をやると、彼は教室の窓際でパンを食べている。「キャー、海斗くーん」「パンを食べてる姿もかっこいい〜」食事中でもファンの子にキャーキャー言われていて、ちょっと迷惑そう。ていうか相楽くんは、出席番号順でたまたま席が私の後ろっていうだけなのに。香澄ちゃん、私たちの一体どこを見て、仲良いなんて思ったの?そもそも相楽くんが
「ふーん、50点」「ちょっ、見ないで!」私は、取られた答案を取り返そうとするが……。「ああっ」手を伸ばすと、ひょいと答案用紙を私の手の届かない高いところまで上げられてしまった。「相楽くん!」「小嶋がにやけてたから、どれだけ良い点をとったのかと思ったら……ふはっ」私の答案用紙を見て肩を震わせるのは、陸斗くんの双子の弟である、相楽海斗くん。高校2年のクラス替えで彼と同じクラスになり、なんと席も私の後ろになった。それ以来なぜか相楽くんは、私にちょっかいをかけたり、たまに嫌なことをしてくる。彼に目をつけられるようなことをした覚えは、ないんだけどな。◇翌朝。「よし、きれいに結べた」昨日、陸斗くんに『髪結んでるところ見てみたい』って言われたから。今日は、いつもよりも頑張って早起きして、髪を後頭部でひとつに結んでみた。ツインテールやお団子ヘアにしようか迷ったけど、ここは無難にポニーテール。何度か結びなおして、鏡で最終チェック。ふふ。陸斗くん、この髪型を見たらなんて言ってくれるかな?「希空ーっ。早く行かないと、遅れちゃうわよ」「いけない!」お母さんに声をかけられて洗面所の壁時計を見ると、いつも家を出る時間を少し過ぎていた。「いってきまーす」私は、慌てて家を飛び出した。「ふぅー」全力で家から駅まで走ったおかげで、ギリギリいつもの電車に間に合った。そして今、私は学校に到着し下駄箱で上履きに履き替えたところ。陸斗くん……いるかな?廊下に出て、コンパクトミラーで髪が整っているか確認していると。「キャー!陸斗く〜ん」「相楽くーん」複数の女の子の、黄色い声が聞こえてきた。そちらに目をやると、廊下で陸斗くんが何人かの女の子に囲まれていた。いっ、いたーっ!陸斗くんを目にした途端、ドキドキと胸が高鳴る。陸斗くん、私に気づいてくれるかな?でも、沢山の女の子に囲まれているから、多分こっちには気づいてくれないよね。そう思いながら、しばらく陸斗くんを見つめていると。ふとこちらを向いた陸斗くんと、パチッと目が合った。そして、私のことをじっと見てくる陸斗くん。きゃーっ。みっ、見られてる!?私が思わず、陸斗くんから目を逸らしそうになったとき。「希空ちゃん!」「え?」陸斗くんが、私の名前を呼ぶと。「今日の髪型……すっごく可愛い!」う
それから彼は、職員室まで一緒にノートを運んでくれた。「ど、どうもありがとう。相楽……くん」「ううん。僕は、ただ当然のことをしただけだよ。またね、小嶋さん」爽やかにヒラヒラと手を振ると、相楽くんは歩いていった。か、かっこいい……ていうか相楽くん、私の名前を覚えててくれたんだ。そんな小さなことすらも嬉しく思いながら、私は遠ざかっていく彼の背中をしばらく見つめていた。◇あの日を境に、相楽くんに恋をしてしまった私。多分、一目惚れだったんだと思う。それからしばらくして、相楽くんは双子だということが判明。あの日、私を助けてくれたのがお兄さんの陸斗くん。そして、海斗くんという弟が隣のクラスにいることを知った。学校中の女の子から大人気の、王子様的存在の陸斗くんに恋をしてしまった。地味な私なんて、到底手の届かない相手だと思っていたのだけど。あのあと、たまたま陸斗くんと同じ図書委員になった私は、委員会の仕事を一緒にするうちに陸斗くんと少しずつ仲良くなっていった。「希空ちゃん、おはよう」「おっ、おはよう。陸斗くん」そして現在、高校2年目の春。陸斗くんのことを想い始めてから、ちょうど1年。今ではお互いのことを、下の名前で呼ぶまでになれた。高校2年生になってクラスが離れてからも、朝学校で会うと、陸斗くんはいつも私に声をかけてくれる。人気者の陸斗くんから声をかけてもらえるなんて、夢みたい。陸斗くんに朝、笑顔で声をかけてもらえるだけで、とても幸せな気持ちになれるんだ。「ねぇ。そういえば、希空ちゃんはいつも髪おろしてるけど。結んだりはしないの?」「え?」ある日突然、私は陸斗くんにそんなことを聞かれた。「一度、髪結んでるところ見てみたいな」それだけ言うと、陸斗くんは友達と一緒に歩いていく。やばい、どうしよう。陸斗くんに『髪結んでるところ見てみたい』って、言われちゃった……!◇ああ、今日もかっこよかったなぁ、陸斗くん。『髪結んでるところ見てみたい』って、言われちゃったし。「おい、小嶋。何さっきからニヤニヤしてるんだよ」「あっ!」現在、数学の授業中。たった今、先生から返してもらったばかりの小テストの答案用紙を、後ろから誰かに取られてしまった。︎︎︎︎︎︎
私の通う高校には、アイドル並みに人気の双子の兄弟がいる。二人だけで、全校女子生徒のハートを鷲掴みにしてるんじゃないかってくらいの人気ぶり。私、小嶋希空(こじまのあ)も彼らのファンのうちの一人だ。お兄ちゃんである相楽陸斗(さがらりくと)くんは、少し癖のあるミルクティーブラウンの髪に、タレ目の二重の瞳と目元のほくろがチャームポイント。弟である相楽海斗(かいと)くんは、染めていないサラサラの黒髪に、涼やかな切れ長の二重の瞳が印象的。相楽兄弟は、双子でも顔は全然似ていないけど。兄弟そろって目だけでなく鼻も口も整っていて、少女漫画のヒーローにも負けないくらいのイケメンだ。おまけに成績も優秀で、陸斗くんはサッカー部、海斗くんはバスケ部で運動神経も抜群。そして、兄の陸斗くんは私の好きな人でもある。陸斗くんと初めて話した日のことは、今でも鮮明に覚えている。あれは、今からちょうど1年前のこと。高校に入学して間もない、4月のある日の放課後。私は、担任の先生から授業で回収したクラスメイト全員分のノートを、教室から職員室まで運ぶようにと頼まれた。「日直でもないのに、なんで私が……」『小嶋お前、暇そうだから』って、先生ひどくない?!そりゃあ今後部活に入る予定もないし、今日は学校が終わったら真っ直ぐ家に帰るだけだけど。入学して早々に雑用を頼まれるなんて、ついてない。「はぁ……」クラスメイト40人分のノートを胸の前で抱えると、無意識にため息がこぼれた。ていうかこれ、けっこう重い。その上、何冊ものノートを胸の前で抱えていると、目元が隠れてしまって足元がおぼつかない。私は、足元に気をつけながらゆっくりと階段をおりていたのだが。──ズルッ!「きゃっ」ふとした瞬間に足が滑り、体が大きく後ろにのけぞった。うそ。おっ、落ちる……!そう思ったときだった。「危ない!」私は、後ろから誰かに抱きしめられた。え!?「キミ、大丈夫?!」相手の人の両腕が、後ろからしっかりと私の腰にまわされている。誰かが、助けてくれたんだ。「はい、ありがとうございま……」私は、助けてくれた人にお礼を言おうと後ろを振り返った。だけど、最後まで言葉を発することができなかった。だって相手の男の子が、思わず息を飲むほどきれいな顔立ちをしていたから。︎︎︎︎︎︎「怪我はない?」