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第5話

last update Last Updated: 2025-04-07 16:11:56

背後から耳馴染みのある声がし、後ろを振り返ると。

……!

私の真後ろに、陸斗くんが立っていた。

「りっ、陸斗くん!」

うそ。いつの間に来ていたの!?

「希空ちゃん、ごめんね?来るのが遅くなっちゃって」

間近でふわりと清潔感に満ちた香りがして、胸がドキッと跳ねる。

「それで、どの本を取りたいの?これ?」

スッと背後から書棚へと伸びてきた腕が、私の右の肩をわずかに掠める。

「そ、その右隣の本を……」

私が言うと、陸斗くんは後ろから私に覆いかぶさるかのような体勢で、書棚から目的の本を抜きとった。

り、陸斗くん、距離が近すぎるよ……!お陰で心臓が、ばっくんばっくん鳴ってやばい。

「はい、どうぞ」

「あっ、ありがとう」

「あれ?希空ちゃん、何だか顔が赤いよ?」

「えっ!?」

「……顔が真っ赤な希空ちゃんも可愛い」

陸斗くんに耳元で吐息混じりに囁かれ、背筋がゾクリとする。

「ちなみに、僕もその本読んだけど面白かったよ。オススメ」

「わあ。陸斗くんのオススメなら、絶対読みたい。さっそく借りて読んでみるね」

「うん。それじゃあ、委員会の仕事頑張ろうか」

そう言って陸斗くんは、返却された本を手にする。

「書棚の高いところは、僕がやるから」

「ありがとう」

それから私たちは、しばらく黙々と作業をしていたのだけど。

「……くしゅん」

その沈黙を破ったのは、私のくしゃみだった。

今日の日中は夏のように暑かったから、ブレザーを脱いでブラウスのみで作業をしていた私。

夕方になって、冷えてきたのかな。

「……くしゅんっ」

またもや、くしゃみが出てしまった。好きな人のそばでこう何度もくしゃみをするのは、ちょっと恥ずかしいかも。

ちなみにブレザーは、教室に置いたままで手元にない。

「希空ちゃん。良かったらこれ、着てて」

陸斗くんは自分のブレザーを脱ぎ、私の肩にふわりとかけてくれた。

「えっ、でも悪いよ。陸斗くんも寒いでしょう?」

「僕は平気。希空ちゃんが風邪でもひいたら、大変だから。僕のことは気にしないで?ねっ」

陸斗くんの優しさに、胸がキュンと鳴る。

「ありがとう、陸斗くん」

ここは陸斗くんのお言葉に甘えて、私はブレザーをこのまま借りておくことにした。

陸斗くんのブレザーは私にはブカブカだけど、すごく温かい。まるで、陸斗くんに包みこまれているみたい。

そして私たちは、図書委員の仕事を再開させた。

私は作業をしながら、こっそりと横目で陸斗くんのことを見る。

書棚の整理をする、海斗くんの真剣な横顔。素敵だなぁ。

自分の好きな場所で、好きな人と一緒。なんて幸せな時間なんだろうと、頬を緩ませていると。

「……邪魔」

後ろから、突然聞こえた低い声。

声がしたほうに目をやると、不機嫌そうな顔をした陸斗くんの弟である相楽くんが立っていた。

「本を借りに来たんだけど。小嶋、ほんと邪魔。お前がそこにいると、本が取れねぇ」

もう一度、イラついたように言う相楽くん。

「海斗お前、そんな言い方ないだろ?希空ちゃんは、委員会の仕事を頑張ってるんだから」

「あっそ。つーか、なんで小嶋が陸斗のブレザーを着てるわけ?」

相楽くんは、こちらを射るような眼差しで見てくる。

ほんとにちゃんと、仕事やってるのか?とでも言いたそう。

私は思わず視線を、相楽くんから逸らしてしまった。

「べ、別にいいだろ?冷えてきたから、僕が希空ちゃんに貸したんだよ」

「ふーん。てか小嶋、早くそこどいて」

「ごっ、ごめん。相楽くん……」

私は慌てて、その場から離れた。

「ていうか海斗、お前はもっと女の子に優しく言えないのか?」

「はぁー。陸斗……そういうのマジでうざい」

吐き捨てるように言うと、相楽くんはお目当ての本を取ってさっさとカウンターのほうへと行ってしまった。

ああ。さっきの相楽くん、なんだかちょっと怖かった。まさか、あんなあからさまにイライラされるなんて。しかもなんか、キツく睨まれちゃったし。

あの切れ長の瞳に、睨みつけられたいとか。殺されたいっていう、訳のわからないファンの子たちもいるみたいだけど……。

私は、さっきの相楽くんのあの射るような目つきはちょっと苦手。

「希空ちゃん、さっきは弟が本当にごめん」

陸斗くんが、私に両手を合わせる。

「ううん。陸斗くんが謝ることないよ。私が、ぼーっとしてたのがいけなかったんだろうし」

相楽くんは、教室で私にたまにちょっかいを出してくるかと思えば、今日みたいになぜかすごくイライラしてるときもある。よく分からない人だ。

もし私が相楽くんに何かしたっていうのなら、ほんと教えて欲しいよ。

私は、そっとため息をついた。

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