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第2話

この檀木の数珠は、私が松田泰雄に送ったものだ。

昨年、松田泰雄の会社が投資した不動産が問題を起こし、投資家が資金を持ち逃げして東南アジアに逃亡した。

松田泰雄は会社を守るために、人を引き連れて東南アジアに追ったが、そこで罠にかかった。

丸三日間、連絡が取れなかった。

警察も手がかりを見つけられなかった。

私は焦り、ネットで解決策を探していたところ、お寺での祈願が効くという話を見つけた。

すぐにお寺に行って、三千段の石段を、一歩ごとに額をつけて祈りながら登った。

冬で、大雪の中、私は一晩中外で祈り続け、翌日ようやく彼が無事に帰ってきたという知らせを受けた。

帰る前に、寺の和尚さんに頼んで檀木の数珠を一ついただいた。

それは、安全と健康、幸運を祈るものだった。

私は帰った後、自ら松田泰雄の右手首にその数珠をつけてあげた。

それ以来、彼は一年以上、その数珠を一度も外さなかった。

その場にいた誰も、私の心の中を知ることはなかった。

こんなにも長い年月、松田泰雄は外で私を認めたことは一度もなかった。世間から見れば、私は彼の高級秘書にすぎず、彼の雑事をすべて処理する存在だった。

松田泰雄が何の迷いもなく数珠を投げ捨てるのを見て、宮脇圭織は満面の笑みを浮かべた。

その瞬間、私はほとんど呼吸ができなくなりそうだった。

一心に祈って得た祝福も、こんなにも簡単に捨てられるものなのか?

突然、どこからか強烈な焦げ臭い匂いが漂ってきた。

松田泰雄が思わず声を上げた。

続いて執事の声が聞こえた。

「屋根裏の電線がショートして火が出ました。消防に連絡しましたが、火は大したことありませんので大丈夫です」

私たちは一斉に隣の小屋裏に目を向けた。

確かに、そこから煙が上がっていた。

宮脇圭織は鼻を押さえながら、不満そうに言った。

「いつ片付くの?臭くてたまらないわ!」

私は二人に構うことなく、急いで小屋裏に向かった。

宮脇圭織は私を一瞥しながら、何か考え込むように松田泰雄に話しかけた。

「松田くん、彼女火を消しに行くんじゃない?」

「バカじゃないんだから」

松田泰雄の声が途切れるや否や、私はすぐさま屋根裏へ駆け込んだ。

「えっ!彼女、気でも狂ったんじゃない?彼女、松田くんに気に入られるために命まで捨てる気なのかしら?」

宮脇圭織の声が聞こえる中、私は松田泰雄のことなど気にも留めなかった。

その瞬間、彼の表情は動揺し、どうしていいか分からない様子で、手を伸ばして私の手首を掴もうとしたが、間に合わなかった。

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