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第6話

私は原寿光を見つめ、あまりに驚いて反応ができなかった。

「結婚相手?」

「そうだ」

原寿光は確認するように頷いた。

少し考えてから、私は微笑んだ。

「すみません、私には不向きです。原さんがいなくても、私は松田さんと別れます」

そう言って、私は車のドアを開けようとした。

原寿光は話を続けず、名刺を差し出してきた。

「それじゃあ、谷口さんの幸運を祈っているよ」

「協力はしなくても友達にはなれる。何かあったらいつでも連絡して」

私はしばらく考えた後、名刺を受け取って車を降り、松田泰雄の別荘へと向かった。

部屋の中は広く、あまりに静かだった。

まるで、いつもの騒がしい場所とは全く違う空間のようだった。

執事が私を見て慌てて言った。

「お帰りなさいませ……」

私は軽く頷き、あまり会話もせずに、まっすぐ二階の自分の寝室へと向かった。

しかし、ドアを開けた瞬間、そこに松田泰雄が座っているのが目に入った。

彼は、朝出かける前にまとめた私の荷物の前に座り、手に携帯電話を持って、誰かの連絡や電話を待っているようだった。

空気は濁っていて、おそらく彼がまた大量にタバコを吸ったのだろう。

ドアが開く音を聞いて、彼は顔を上げ、まぶたを開けて私の方を見てきた。

「お前、引っ越すのか?」

私は彼に返事をせず、そのまま奥の棚に歩み寄り、引き出しを開け、自分のビザと財布を取り出してバッグに入れた。

「お前、何してるんだ?」

松田泰雄の声には明らかに焦りが含まれていて、彼の声はかすれていた。

「それをどうするつもりだ?」

私は淡々と答えた。

「もうすぐ宮脇さんと結婚するのでしょう。今朝も声明を出していたわ。私がここに居続けるのは、みんなに良くないと思うの」

私が床に置いてあった荷物を持ち上げようとしたその瞬間、松田泰雄が私の手首を掴んだ。

「会社の資金繰りが悪化していることは知っているだろう。宮脇家だけが助けてくれるんだ。お前だってわかってるはずだ。あれはただの演技だったんだ。

やめてくれ、幸優ちゃん」

彼の目は赤くなっていて、私をじっと見つめていた。

「前みたいに戻ろう。なあ、どうだ?」

前みたいに?無名で、表には出せない金の鳥籠の中で。

私は何も言わず、床に置いてあった荷物を持ち上げ、部屋のドアに向かって歩き出した。

そして、松田泰雄に向かって首を横に振った。

「松田さん、これでお互い借りはないわ。私はあなたに借りがないし、あなたも私に借りはない。これで、もう二度と連絡を取らないで」

そう言って私は歩き出した。すると背後から、物が壊れる音が響いた。

「幸優ちゃん」

松田泰雄は声を抑えて私を呼び止めた。

「よく覚えておけ。今日ここを出て行ったら、俺はお前の兄貴の薬をすぐに止めるからな。お前の力じゃ、あの高額な治療費は到底払えないだろう」

私は足を止め、その場で立ち尽くした。

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