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第5話

私はダムに行き、その檀木の数珠を遠くへと投げ捨てた。

その瞬間、突然空が暗くなり、激しい雨が降り始めた。

私は微笑み、上着を頭にかけ、雨の中を歩き出した。

雨も風も強く、体に当たる冷たさがひどかった。

一台の車が私の前に停まった。

窓がゆっくりと下がり、冷たい顔が現れた。

それは山崎市最大の不動産グループの社長、原寿光だった。

彼は大学時代にアメリカへ行き、最近になって帰国したばかりで、果断で冷酷な手腕を持っていると噂されていた。

その資産やリソースは松田氏と並ぶほどだ。

数日前、松田泰雄と共にイベントに参加した際、彼と一度顔を合わせたことがあった。

「車に乗れ、ここにはタクシーは来ない」

彼は言った。

私はスマホでタクシーを呼んだが、一台も応じる気配がなかった。

小声で「ありがとうございます」と言い、ドアを開けて車に乗り込んだ。

原寿光は一瞥して、タオルを私に投げ渡した。

「髪を拭け」と、ハンドルを左手で握りながら、地図を見ている様子だった。

「どこまで送ろうか?」

この質問は正直に答えるのが少し難しかった。

私はずっと松田泰雄の別荘に住んでいたが、もう関係を終わらせるつもりなので、すべての荷物を取りに行かなければならなかった。

「まだ荷物を取り出していないから、松田泰雄の別荘まで送ってもらえますか?」

と答えた。

原寿光は何も言わず、そのまま車を走らせて松田泰雄の別荘の前まで送ってくれた。

車から降りようとしたとき、原寿光は私を呼び止めた。

「谷口さん、どうだ、協力しないか?松田さんから解放してあげよう。その代わり、僕に手を貸してほしい」

原寿光はまるで今日の天気のことでも話しているかのように軽い口調で続けた。

「僕は結婚相手が必要なんだ。家族に口を出されないためにね」

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