ハァーッという盛大な溜息と共に眉間にキュッとシワを寄せ、イラついたように髪をかきあげる。「ついにやったか」「なにを?」 怒っている男性を目の当たりにしてもまったく臆することなくジンは尋ね返したけれど、その男性はじっと射貫くように私に視線を送ってきた。 表情に加え、身体に穴があくかと思うくらいの攻撃的な視線に、私は身を縮こまらせる。「いつか俺に隠れてやるんじゃないかと思っていたが」「だからなんの話?」「堂々と女を連れ込んどいて、なにをとぼけてんだよ!」 ジンは呆気にとられていたけれど、すぐにふるふると首を横に振る。「違うよ、誤解だ」 ジンの言うとおりなのだけれど、朝早くに男女が起き抜けにモーニングコーヒーを飲んでいるのだから、この光景を見たら事情を知らない人は誰しもが誤解するだろう。 私たちが一夜を共にするような男女の仲だと。『家に今帰ったら、ショウくんに説教くらうよ』 たしか昨日、ジンはそう口にしていたと思い出した。 異常なまでのチャイムの連打からして、ジンがショウさんを元々怒らせていた原因は別にある。 その上、私のことで誤解が生じたとなるとショウさんの怒りがさらにエスカレートするのは至極当然だ。「なにが誤解だ!」「由依は社長が連れてきたんだよ」「そんなわけないだろ。もっと上手い言い訳くらい考えとけよ!」 ショウさんの迫力に押されながらも、本当に誤解なのだとジンが必死に説明を繰り返す。 事情をわかってもらえるように私も加勢しなければと思うものの、口を挟む隙がない。「由依、驚かせてごめん。この人は、俺の兄貴」 突然そう紹介され、別の意味で驚いた。 この外国人であろうショウさんがジンのお兄さんだとはすぐに理解できずに頭が混乱する。 もしかしたらジンも日本人ではないのかもしれない。「実の兄貴じゃないだろ」 少し困ったような色を含ませながら、ショウさんが小声でボソリとつぶやいた。「俺はコイツのマネージャーだ」
最終更新日 : 2024-12-26 続きを読む