二十二歳の女に向かって、“少女”だなどと言うのは武田くんくらいのものだ。 彼の中では、私はずっと出会ったころの高校生のままなのだろう。「今日こそ一緒に飯でも、って思ったのに」「ごめんね、武田くん。また今度」「お前……大丈夫か?」 バッグを肩に引っ掛け、軽く手を振って立ち去ろうとしたそのとき、武田くんに呼び止められてピタリと足を止めた。「大丈夫って、なにが?」「なにか悩み事があるんなら、遠慮せずに俺に言えよ」 その言葉を聞いた途端、私は周りの人たちに知らず知らずのうちに憂いを秘めた顔を見せてしまっていたのかもしれないと気がついた。 武田くんの心配そうな瞳を目にしてそれを確信する。「ありがとう。もし悩み事ができたら話すね」 私は無理ににっこりと笑って誤魔化し、バイト先をあとにした。 街を吹き抜ける風が昨日よりも冷たい。 武田くんに対して申し訳ない気持ちと感謝の気持ちが心の中でマーブル模様を描く。 いつか、もう少し私の心に余裕ができたら、母のことを武田くんにも話せる日がくるかもしれない。「じゃあ、これに着替えてください」 今日一日だけやることにした臨時のバイト先で、私は衣装を渡され、唖然としてそれを手に取りまじまじと見つめた。「寒いけどコートは着ないでね。せっかくの可愛い衣装が隠れてしまうから」 ごめんね、と苦笑いで店長の男性は控室をあとにした。 とりあえず渡された衣装に袖を通していく。 こういうものを着ると事前に聞かされていたけれど、私が想像したものと少し違った。「なんか、スカートが短い」 自分の姿を鏡と目視でチェックしながらポツリと独り言が漏れる。 かなり太ももがあらわになったこの格好で、私はこれから外に行かなくてはいけないのだ。 今日だけの臨時バイトとは、洋菓子店の店頭でクリスマスケーキを売る仕事で、たまたま募集を見つけた私はたった一日だけならと応募したのだ。 暗くなり始める夕方からなので、時給もかなり良かった。 臨時で設置された簡易テーブルにずらりと並べられたクリスマスケーキを、待ち行く人を呼び込んで買ってもらう。
最終更新日 : 2024-12-29 続きを読む