「食事をして帰ろう」 買い物が終わり、日も暮れてちょうどお腹がすいてきた時間にジンがそんな提案をした。 どこか行きたいお店があるのかと尋ねると、意外にもファミレスがいいと言われ、ショッピングモールを出て一番近いファミレスへと移動することにした。 ジンにとっては普段行かない場所だから珍しいらしく、行ってみたいと思っていたのだそう。「激混みだな」 お店に到着すると、ジンが困った顔で苦笑いの笑みを浮かべる。 お正月だから私たちよりも若い世代の子たちが集まっているせいでファミレスは満席で、順番待ちの人が入り口にあふれかえっていた。「ジン、どうする?」「いや、これは無理だから帰ろう。ファミレスはまた今度」 私もそれが正解だと首を縦に振った。 順番を待つのなら、相当な待ち時間が予想されるから。 踵を返して帰ろうとする中で、私はとある人物とバチっと目が合ってしまった。「由依?」 向こうも私に気づいたらしく、声をかけながら近づいてくる。「すごい偶然だね」 その人物はカフェのバイト仲間の武田くんだった。 彼は友達数人と食事をしたのか、ちょうど出てきたところで私と偶然鉢合わせをしたみたいだ。 明けましておめでとう、と挨拶した私よりも、武田くんは私の後ろに立つ人物が気になったようで、なぜかジンの姿に視線を送り続けている。 自分の友達には先に行くように促し、武田くんは私の手首を掴んですぐそばの出入り口から外に連れ出した。「あれは誰だ」 いつもより幾分武田くんの声が低いように感じた。「誰って……」「俺がいくら飯を誘っても行かないと思ったら、いつの間に彼氏ができたんだよ」 武田くんは私とジンの仲を勘違いしたのだ。 だからといってなぜ彼が怒るような口調になっているのかは全然わからない。「知らなかったな。由依がこんなに面食いだとは」「違うから」 なんとなく誤解されたままなのが嫌で否定の言葉を口にするけれど、それを邪魔したのはジンの腕だった。「由依、スーパーに寄ってから帰ろう。夕飯は家でふたりで作ればいいよ」 私と武田くんが話している最中だというのに、ジンはわざとらしく背後から腕を回して私の腰に巻き付け、自分のほうへ引き寄せたのだ。
最終更新日 : 2025-01-01 続きを読む