「ショウさんの言い分はもっともだよ。今回だけじゃなく、今後恋愛ドラマをやるなら常について回る問題だから、理由があるならちゃんと伝えておくべきだ」 たしかに恋愛ドラマにおいて、しかも主役でとなるとキスシーンは求められると思う。 私が今回書いた脚本にだってキスシーンは出てくるし、そこはヒーローとヒロインの想いが通じ合う重要な場面だ。 それをカットするとなると盛り上がりに欠けるし、見ているほうも消化不良になるだろう。 そんな思考をめぐらせていると、ふとジンと目が合った。「理由は特にない。よく知りもしない相手とキスしたくない。それだけ」 私のほうを見ながらポツリとつぶやくように言ったジンの言葉に、ショウさんは再びわかりやすく顔をしかめた。「ふざけるな。相手は女優だ。お互い“演技”でやるんだ。仕事だろう!」「だったら恋愛ドラマじゃなくて、刑事ものとかアクションものにしてくれよ」 威圧感のあるショウさんに対し、ジンはひるまずに真っ向から自分の意思を伝えた。「アクション? やったことないだろ。刑事? お前みたいな年の若い刑事がどこにいるんだ!」 アクションは、いきなりは無理だけれどがんばればやれないことはないだろう。 だけどジンが刑事には絶対に見えない。 こんなに若くて王子様みたいな容姿をしている刑事なんて、現実には存在しないだろうから。「アクションや刑事ものは今後いくらでもできる。時期が来たら嫌というほどやらせてやる。だが恋愛ものは今のお前にしかできないんだよ」 少し声のトーンを落としつつショウさんが諭すようにジンを見つめながら言った。 女性の胸をキュンとさせるような恋愛ドラマのキャストにはどうしても若い男女の俳優が求められるし、今のジンの年齢からするとやはり恋愛ドラマが最適だと思う。「ジン、お前はなんにもわかってないんだ。世の中には主役をやりたいと願っても叶わない俳優がどれだけいることか。ドラマの端役ですら出られない俳優も山ほどいる。お前はイケメンで、スター性を持って生まれてきた。それがどれだけこの世界で幸運なことか、全然わかってない」 ショウさんの言うとおりだ。 いくら芝居が好きで俳優という職業をやっていても、主役を演じられる人間はひと握り。 しかも恋愛ドラマの主役となれば、顔もイケメンでないと見ている人を魅了できない。 本当に限
Last Updated : 2025-01-10 Read more