以前のバイト先の店長にも頭を下げ、急遽辞めさせてもらった。 バイト仲間の武田くんには結局挨拶できないままだったが仕方がない。 私の居場所がどこからジンの耳に入るかわからないと思うと、いきなり消えるしかなかったから。 だけどあれから四年が経つのだから、今は心配要らないと思う。 ジンはもう捜してなどいないだろう。私という存在すら忘れているかもしれない。「そうだ。由依ちゃん、俺が携わったCMが出来たんだよ。見る?」「例の清涼飲料水のやつですよね。見たいです!」 大手の飲料メーカーが新しい清涼飲料水をこの夏に発売するらしく、なんとうちの会社がそのCM撮影を請け負うことになったのだ。 大きな仕事だし、担当の上森さんがかなり力を入れていたのを知っていたから、私も出来上がるのが楽しみだった。 私は嬉々としながら上森さんのデスクのそばに移動して、パソコンのモニター画面を覗き込んだ。 上森さんがUSBを差し込んで動画を再生させると、アップテンポな曲と共に映像が流れ始める。「曲も雰囲気も活気があっていいよね」 上森さんの言葉にうなずきながら、私は映像に釘付けになった。 CMは十五秒と三十秒のバージョンがあるが、見せてくれたのは後者のほうで、若い男女が何人かでバーベキューをしている楽しそうな映像だった。「……え……」 似ている。瞬間的にそう思ったところで映像が切り替わった。 爽やかにペットボトルの中身を飲んだ男性の顔のアップで終わっている。 ――――ジンだった。「どうしたの、由依ちゃん」 そう声をかけられても呆然としたまま、驚きすぎて動悸がおさまらない。「わかった! さっきのモデルがイケメンすぎて、ときめいちゃったとか?」 事情を知らない上森さんがシャレにならないことを言う。「爽やかさが売りの商品ですからCMにはピッタリの人材ですね」 当たり障りのない会話と作り笑いで、私は挙動不審さをごまかした。 この会社は芸能界と密接に関係があるのだから、ここで働くのならばこういうケースも覚悟しておかなければいけなかった。 いちいち動揺するな、と心の中で自分を叱責する。「あ、来たよ、由依ちゃんの“保護者”さん」 パソコンの画面から顔を上げると、相変わらず柔らかい癒し系の空気を醸し出す甲さんを見つけた。 遠い距離から軽く会釈をすると、甲さんは麻
Last Updated : 2025-01-20 Read more