てっきり車でどこかのカフェに移動して、こみあった話になるのだろうかと予想していたからなんだか拍子抜けだ。まさかこんな端的な内容で、車の中で済んでしまうとは思わなかった。 だけど顔を見てきちんと謝罪することもできたし、ショウさんと話せて本当によかったと思う。 私のほうから会いに行くとなれば勇気がいっただろうから、来てくれたショウさんには感謝しかない。「話は終わりだ。着いたぞ」 見覚えのある場所を通り、ショウさんは車を静かに駐車場に停めた。「ここって……」「まさか、忘れたわけじゃないだろう?」 クイっと顎で前方を指し示し、ショウさんは先に車を降りてしまう。 ここにはもう来ることはないと思っていた。 懐かしさやつらさ、いろんな感情が目まぐるしく蘇ってきて私の胸を締め付ける。 私も車から降りてその建物を見上げた。「社長は売らなかったんだ。由依がいつでも戻ってこられるようにと頑なにここだけは守ってた」 連れて来られた場所は相馬さんが所有していたあのマンションで、初めて訪れたときと同じように今も優雅にそびえたっていた。 四年前、相馬さんの会社が大変なことになったときに、私が使わせてもらっていた部屋は売りに出されたのだと思っていた。 最上階で見晴らしも良く、手入れも行き届いているからすぐに売れたのだろう、と。 だけど私のために売られていなかったなんて今初めて知った。 今さらだけど相馬さんに対して申し訳ない気持ちでいっぱいになってくる。「今は誰も使ってない。中に入ってみないか? 綺麗にしてあるから」 返事を待つことなく、ショウさんは私の手首を掴んでエントランスを抜けていく。 あの部屋に入るのは、いろんなことを思い出してきっと苦しくなってしまうから私にはまだ無理だ。懐かしいと本気で思えるくらいの年月が経たないと立ち入れない場所だと思う。「私はいいです」「来いって」 踵を返そうとする私の腕を取り、ショウさんはほとんど無理やりのように私を部屋に押し入れた。「ショウくん、自分で呼び出したくせに来るのが遅い!」 玄関に靴が脱いであると気づくのと同時にリビングから声が聞こえた。 未だに私の手首をつかむショウさんを不安げに見上げると、なぜだか穏やかな笑みを浮かべている。 手首は離されることはなく、そのままなだれ込むように部屋に上がり、ショウ
Last Updated : 2025-01-31 Read more