仕事なのだし、今日だけの辛抱だ。 神山めぐにどんなワガママを言われようと、滞りなく撮影が終わるならそれでいい。 しかし、ジンとショウさんに見つかってしまったことは問題だ。 引っ越しは別としても転職はせざるを得なくなった。 麻耶さんも上森さんもとても良い人で働きやすかったから、本当は辞めたくないのだけど。 だけどもしもジンが今後私と関わる気がないとしたら、今までどおり社内で事務仕事だけしていれば基本的に接触することはないわけだから、転職しなくて済むかもしれない。そのあたりは甲さんに相談しよう。 ジンは私を見つけた最初こそ驚いていたものの、そのあとは私と目を合わせるどころか一瞬たりとも視線を寄こさなかった。 私のことは知らないし関係ないといった態度に見受けられるので、今さら私がどこで働こうと、どこに住んでいようと、どうでもいいのかもしれない。 いろいろ悶々と考えていると、なんだか気分が悪くなってきた。 どうやらクルーザーの揺れで軽く船酔いしたらしい。 ペットボトルの水を口に含み、自分の体調の変化をごまかそうとしたが胃がムカムカする。 クルーザーが沖合に出ると言っても大した距離ではなく、混雑したマリーナから離れて海をバックに撮影したいだけなのだ。 程なくしてクルーザーが停止し、スタッフ全員が撮影のために準備を急ぐ。 着ていた上着を脱ぎ、真っ白なシャツ姿でデッキへと向かうジンが自然と視界に入って思わず見惚れそうになってしまった。 なんてカッコいいのだろう。彼の筋肉質なフォルムは誰もが目を奪われると思う。 二十五歳になったジンは、あのころより男らしさや大人の魅力も色気も断然増してきている。 もう私の知っているジンではないみたいだ。「由依ちゃん、シャンパンをグラスについでふたりに持って行ってくれるかな」 どうして私が、と顔が引きつってしまった。 ほかにもたくさんスタッフはいるのに、なぜ私がジンと接触するようなポジションに置かれるのだろうと上森さんを少しだけ恨んだ。 私はフーッと息を吐き、なんでもない素振りでふたりにグラスを持って近づいた。「よろしくお願いします」 グラスをジンに渡すとき、指先同士が少し触れてドキッとしてしまう。 だけど私は目を合わさなかった。おそらくジンもこちらを見ていないだろう。「ちょっと!」 神山めぐにも
Last Updated : 2025-01-25 Read more