解剖台の上にある死体の断片は、まるで巨大なクラゲのように膨れ上がっていた。薄黄色の粘液が絶え間なく滲み出し、ぽたぽたと垂れている。 臭いんだろうなあ。 もう死んでしまった私は、匂いを感じることはできないけれど。 「宮崎隊長が来たよ」 扉の音に気づいた検視官の海斗が、作業の手を止めて顔を上げた。 剛志は眉をひそめ、鼻を指でつまみながら言った。 「状況はどうだ?」 「遺体は完全に巨人観を呈しており、表面にもタトゥーのような目立った特徴はないです。女性だということは辛うじてわかりますけどね」 「随分と残酷だな。遺体を切り刻む前に、多くの骨がすでに粉々に砕かれていたようだ」 海斗はため息をつきながら続けた。 「でも、金庫に付いていた海底の苔から、死亡推定時期は約5年前だと判断できました」 剛志の手が一瞬止まった。しかしすぐに冷静さを取り戻し、手袋をしっかりはめ直すと、海斗と共に解剖の作業を続けた。 ――もう、死んで5年も経っていたのか? 私は空中に浮かびながら、自嘲気味に口元を歪めた。 何かの理由で、私は死体を海に捨てられた後も、深海のその場所に長く彷徨っていた。人気のないその場所では、鳥さえも滅多に姿を見せない。 嵐や雷がどれほど荒れ狂おうと、私は消えることができなかった。 そんなある日、禁漁期にこっそり深海に入って、一儲けしようとした船がやってきた。 彼らが引き上げたのは――私の死体だった。 しかし、刑事課の隊長である剛志が、今回の解剖に自ら立ち会うとは思ってもみなかった。 彼は重度の潔癖症なのに。 「うっ......!」 巨人観の死体の悪臭は、通常の死体よりもはるかに強烈だ。百戦錬磨の海斗ですら、最初の一刀を入れた瞬間、ゴミ箱にしがみついて激しく嘔吐した。 剛志も数歩後退した。 しばらくして、彼はもう一度確かめるように聞いた。 「今日は香織がいないんだな?」 「香織さんは結婚ドレスの試着で休んでますよ」 海斗は顔を拭いながら力なく答えた。 「分かってます、宮崎隊長。この件は香織さんには黙っておきますよ。お二人はもう妊活を始めてますから、こんな臭いものは、身体に良くないですし」 「そうだな」 剛
Last Updated : 2024-10-22 Read more