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第9話

玄関先の剛志の同僚、高木が突然嘔吐した。

私も吐きそうだった。

初めて流産したとき、彼はただこう言った。

「俺の母さんも結婚したばかりの頃、流産したけどな。ちょっと黒砂糖水を飲んで、その日にはもう畑仕事に出てたよ」

「お前、弾が当たっても泣かなかったのに、子供を流したくらいでそんなに大袈裟になるのか?」

「キャラ壊れるって思わないのか?」

そうだ。

私は、ずっと心待ちにしていた命を失って悲しかった。彼はそれを、私が弱さを装っていると思った。

それなのに今、彼が後悔しているかのようなこの姿は一体誰に向けたものだ?

まるで空気のように無視されている私にか?

剛志、あなたは本当に滑稽だ。

その時、廊下の向こうから海斗の怒鳴り声が聞こえた。

「剛志、お前一体何やってるんだ!」

「今何時だと思ってるんだよ!」

「香織さんは泣き腫らしてるんだぞ!お前はそれでも良心が痛まないのか!」

だが剛志は焦ることなく、私の遺体の一部を元に戻し、丁寧に引き出しを閉めた。

まるで、そうすればバラバラになった身体が元通りになるとでも思っているかのように。

高木はただ、どうしたらいいのか分からないといった様子だった。

「ちょ、ちょっと!これは!」

その間に、海斗が飛び込んできて、拳を振り上げて剛志の顔面に殴りかかった。

「この野郎!香織さんはお前と結婚して幸せになるためだったんだ!こんな笑い者になるためじゃない!」

だが剛志は軽くそれを避け、素早く海斗の手首を捻り、彼をドア枠に押しつけた。

高木はますます混乱した様子で、「剛、剛志......」と震えながら言った。

「剛志、一体何をしているんだ!」

「自分の結婚式だからって、こんなふざけたことが許されると思ってるのか?」

「香織さんはこんなに素晴らしい子だぞ。俺はもう自分の娘みたいに思っているんだ。今日の件、納得のいく説明がないなら、容赦なく処罰するぞ!」

局長まで来てしまった。その後ろには、涙で目を腫らし、ウェディングドレスを着たままの香織が立っていた。

私は思わずまた笑ってしまった。

香織のために正義を振りかざしているこの人たち、一人一人がまるで道化師のようだ。

真実が明ら
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