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第4話

その当時、剛志は仕事を通じて私に惹かれ、私たちは婚姻届を出した。

ただ、私の身分が特殊だったため、結婚式を挙げることはできなかった。

でも、署内のみんなに結婚の報告をし、お祝いの祝い菓子も配った。それが私にとって、幸せな生活の始まりになるはずだった。

しかし、剛志はその後、頻繁に私と口論するようになった。

「同僚を家まで送っていくのが、そんなに問題か?」

「お前、もういい加減にしてくれないか?」

「理沙、頼むからもう疑うのはやめてくれ。何度も言ってるだろ、俺と香織はただの友達だ!」

でも、本当にそうだったのだろうか?

どんな「ただの友達」が、頻繁にランジェリーのレースがどうとか話し合うんだ?

どんな「ただの友達」が、うっかり真っ裸のバスローブ姿の写真を他人の夫に送るんだ?

どんな「ただの友達」が、妻が流産した日に仕事を休んで一緒に山登りに行くんだ?

それに、酔っ払って電話をかけてくるなんて。

「剛志、どうして私を待ってくれなかったの? あなた、まだ私を愛してるんでしょ?」

剛志はすぐには答えなかった。私から身を隠すために。

「そうだ、俺はまだ君を愛しているよ、香織」

浴室で蛇口を全開にしながら、彼は真剣に答えた。

「でも、もう遅すぎる。俺は理沙の夫になったんだ」

「もし次の人生があるなら、絶対に君を逃さない」

でも、彼は忘れていたようだ。

私は最も優秀な潜入捜査官であり、最も厳しい訓練を受けた警察官だ。

この程度の水音なんかで、私の聴力を誤魔化せるわけがない......。

だから、それが私にとって初めて、彼と本気で口論した日だった。

でも、私の訴えに対する彼の反応は、ただの苛立ちだった。

「理沙、お前、いつまで続けるつもりだ?」

「まさか犯罪者相手にするみたいに俺にもやろうってのか?」

「俺はもうお前と結婚したんだろ? 一体何を望んでるんだ?」

その一言一言が、私の心に鋭い刃を突き立てる。

私は泣き崩れながら彼に問いかけた。

「剛志、あなたが私にプロポーズしたんじゃないの?」

でも、返ってきたのはドアが閉まる音だけだった。

私はその夜、彼の背中に向かって一晩中泣き続け、翌朝、局長に潜入捜査任務の再開を申し出た。

きっと、少し距離を置けば、色々と考えが整理できるはずだと思って。

でも、誰がこんな結末を予想できただろう?

この決断が、全てを失うことになるなんて。

当初、その任務では、人質に予定されていたのは警察学校の3年生だった。

それなりに身のこなしができ、新顔だったから、任務を遂行するには最適だった。

しかし、どういうわけか、最終的に大物麻薬密売人に囚われたのは、香織だった!

その予想外の展開に、私は一瞬、動揺してしまった。

私は彼女が嫌いだった。

彼女のために、剛志は今までの誇りを捨ててまでコネを使い、彼女を捜査チームのインターン法医学者にした。そして、現場でもいつも一緒に行動していた。

それに比べて、私はまるで余分な存在のようだった。

でも、私は警察官だ。任務は全て優先する。

だから、彼女を死なせるわけにはいかなかった。

たとえ、それが私の命に代わるとしても。

ところが、彼女に密かに渡した保命用のナイフは、ためらいなく私の背中に突き刺さった。

その上、彼女は叫んだ。

「この女は理沙! 潜入捜査官よ!」

それは、あの大物麻薬密売人さえも夢にも見なかったような光景だった。

そして、私はまるで氷の底に沈むように、冷え切っていく。

――なぜだ?

「もちろん、あんたが不愉快だからよ!」

彼女は冷たく笑った。

「私と剛志が一時的に離れてる間に、あんたが彼を誘惑して、彼に結婚を迫ったんでしょ。理沙、あんたなんてこの世で一番図々しい女よ!」

「お前、自分が何を言っているのか分かってるのか?」

その場には、周りにたくさんの麻薬密売人がいた。全員、命をかけて逃げる覚悟の連中だ。

そんな状況で、たかが男を奪うために、私を裏切ったというのか!

しかし、香織は答えなかった。

彼女はただ、麻薬密売人のボスに向き直り、歪んだ表情で言った。

「ここで時間を稼いであげる。その代わり、理沙の始末は私に任せて」

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