雅之と江口翠は個室で向かい合って座っていた。そこへ、突然かおるが入ってきて、雅之の表情は一層冷たくなった。翠が不審そうに「あなたは?」と聞くと、かおるは嘲笑しながら「浮気現場を見に来たのよ」と言い放った。翠の顔が険しくなり、「言葉を慎んでください。雅之さんとはただの友人です」とぴしゃり。「雅之さん、ねぇ。ずいぶん親しいじゃない。彼が既婚者だって知ってる?」かおるは二人が友達かどうかなんて気にもしていない。雅之が嫌いだと、その周りにいる人間もみんな嫌いになるのだ。翠が何か言い返そうとした瞬間、雅之が「彼女を追い出せ」と冷たく命じた。すると、どこからともなくボディガードが現れ、かおるをその場から引っ張り出した。傍らにいた里香が一歩前に出て、「かおる、もう帰ろう」と落ち着いた声で言った。終始、雅之と翠には一瞥もくれず、冷静な態度の里香に、かおるは少し苛立ちながらも、何も言えなかった。自分が突っ走ったと気づいているからだ。結局、こういう後始末をしてくれるのはいつも里香だった。ただ、雅之がいつまでも里香を解放せず、ちゃんと大事にしないのが腹立たしいだけなのだ。かおるは肩をすくめ、「まあいいわ。食事の続きをしよう」と言ったが、里香は彼女がまた突っ走らないかと内心ヒヤヒヤしていた。かおるが踵を返して部屋を出ようとしたその時、翠が「奥様」と里香を呼び止め、立ち上がって微笑みながら近づいてきた。里香は冷静に彼女を見つめ、「こんにちは」と返した。以前、雅之と一緒に江口家に訪れたとき、翠がしたことを彼女はまだ覚えていたのだ。雅之が今、翠と食事をしているとは思わなかったが、特に気にしてはいない。翠は少し急いだ口調で、「私は雅之さんとは本当にただの友人なんです。今回冬木に来たのも、江口家の代表としてDKグループとの提携を話し合うためです。ですから、誤解しないでくださいね」と説明した。まるで誤解されるのを恐れているようだが、そんなことを言えば言うほど、逆に誤解を招きそうだ。普通なら、こんな状況に直面すれば、翠の話を聞いて疑念を抱きかねないものだが、里香は他の人とは違う。雅之が誰と一緒にいようが、まったく気にしていなかった。里香は微笑んで頷き、「わかりました、誤解しません。どうぞゆっくりお食事を。お邪魔しませんから」と言うと、翠は少し驚いた
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