かおるは心配そうに里香を見つめた。「こんなとこ、大丈夫?」里香はすぐに答えた。「平気。人を見つけたらすぐ出るから」「そっか」かおるは頷いて、すぐにバーの中へ入って人を探し始めた。人混みの中で誰かを探すのは、思った以上に時間がかかる。しかも、今の里香はスマホを持っていないから、二人で別行動を取ることもできない。バーの片隅のソファ席。テーブルの上には空き瓶がいくつも転がっていて、雅之は乱暴に襟元を引き下げた。全身から、投げやりでどこか虚ろな雰囲気が滲み出ていた。細めの目は真っ赤に充血し、フラッシュのように明滅するライトが彼の周囲だけ避けて通っているかのようだった。彼は酒に酔った客たちをぼんやりと見つめながら、顔をしかめた。見つからない。里香が、見つからない。見失っただなんて、信じたくない。いったいどこへ?誰が彼女を連れて行った?どうして彼女を?頭の中で疑問ばかりが渦を巻き、雅之はこめかみを押さえた。割れるような頭痛。グラスを手に取って、一気に煽った。強いアルコールの刺激が口いっぱいに広がり、せめて心の痛みを一瞬でも麻痺させようとしていた。その時だった。目の前に、見覚えのあるシルエットが現れた。華奢でやわらかなライン。長い髪が肩にかかり、ライトの光に照らされてその姿がゆらめいている。雅之はガバッと立ち上がり、叫んだ。「里香!」けれど、その声は轟音の音楽にかき消された。彼はすぐさま人混みをかき分けて、その懐かしい後ろ姿を追いかけた。彼女はその声に気づいていないのか、一度も振り返らずに階段を上り、角を曲がって姿を消した。雅之の目は真っ赤に血走りながらも、必死にその姿を追い続けていた。ちょうどその頃。人混みの中でふと後ろを見たかおるが、雅之の姿に気づき、思わず叫んだ。「雅之!」その声に反応して、里香も振り返り、階段を登っていく雅之の姿を見つけた。「いた!行こう!」かおるが言うと、里香も頷き、二人は急いで二階へ向かった。人を押しのけながらなんとか階段を上がったものの、雅之の姿はもう見えなかった。ただ、二階は一階ほど混んではおらず、ほとんどが個室になっていた。廊下の突き当たりに立ち止まり、かおるは困ったように言った。「こんなに個室あるのに、どこ入ったんだろ
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