運転手はバックミラー越しに清次をちらっと見て、清次の視線に従って外を見ると、目を見張った。あれは奥様ではないか? 奥様のそばにいる男性は誰だ? キャップとマスクをしてしっかり顔を隠し、撮影スタジオに現れたということは、きっと芸能人だろう。 その男性は奥様と親しい関係に見える。 運転手は小声で「社長、歩美さんが出てきました」と言った。 清次は重くも軽くもない声で「うん」と返事をした。 運転手は彼の意図を測り損ねた。 「車を撮影スタジオの入口に」と清次が言った。 撮影スタジオの入口に車を回すと、奥様に見られてしまうのではないか? 運転手は心の中で考えたが、清次の指示に従い、車を撮影スタジオの入口に回した。 その間、総峰が顎をしゃくり、「あれは社長じゃないか?」と言った。 由佳がその視線の先を見ると、撮影スタジオの入口にいつの間にか黒いポルシェが止まっており、そのナンバープレートは清次がいつも乗る車だった。 歩美が車の前に立っていた。 清次はわざわざ車から降りてきて、歩美に何か話しかけ、歩美は満面の笑みを浮かべた。 その後、清次は歩美のためにドアを開け、紳士的に手で車の屋根を押さえ、歩美が座った後に反対側に回り込んで後部座席に座った。 運転手が車を動かし、その場を後にした。 清次は歩美を迎えに来たのだ。 由佳の心には苦い感情が広がった。 総峰は気づかずに、「俺のマネージャーが最近、新しいプロジェクトに関わってるみたいで、主役は歩美だそうで、山口家の子会社が投資して撮影する大作だ。専用の監督を呼んで撮るみたいだよ。由佳ちゃんの社長は、彼女に本当に大金を使っているんだね。元々MQのブランドキャラクターは池田さんだったって聞いたけど?」 由佳は無理に笑みを浮かべ、袖の中で拳を握りしめた。指が掌に食い込み、深い月の形の痕が残った。 心の中は息苦しいほどの重圧で満ちていた。清次は彼女の知らないところで、すでに歩美のためにこれほど多くのことをしていたのだ。 「由佳ちゃん、総峰くんもここにいたんだ」 北田が荷物をまとめて撮影スタジオから出てくると、総峰を見て驚いた。「総峰くんもここで仕事?」 「そうだよ。久しぶりに会ったから、ご飯でもどう?北田さん、ご一緒してくれる?」 北田は笑って言った。
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