山口社長もう勘弁して、奥様はすでに離婚届にサインしたよ のすべてのチャプター: チャプター 11 - チャプター 20

1205 チャプター

第11話

「ない」 清次は椅子に寄りかかり、眉間に皺を寄ながらパソコンの電源を切って、立ち上がった。「行こう」 家に戻ると、家政婦がすでに夕食の準備をしていた。 夕食を済ませると、清次は再び部屋に戻って仕事を続けた。 由佳はリビングでしばらくドラマを見て、温かい水を注ぎ、キャビネットから薬を取り出して飲んだ。 「薬を飲んでいるのか?どうした?体調が悪い?」 背後から突然、清次の声が聞こえてきた。 由佳は一瞬ドキッとしながらも、振り返って彼を見て、落ち着いて答えた。「最近、胃腸の調子が少し悪いの」 清次は少し歩いて、自分のための水を一杯注いだ。「病院には行ったか?」 彼は今日の昼間のの由佳の様子を思い出し、疑うことはしなかった。 「行ったわ」 「そうか。これからは自分の体をもっと大事にしな」 彼の心配そうな言葉を聞いて、由佳は頷いたのだが、心の中は痛かった。 …… 朝、由佳は携帯電話の着信音で目を覚ました。 彼女はぼんやりとした目でベッド脇のサイドテーブルの携帯電話を取り、画面を開き電話に出た。「もしもし」 アシスタントの焦った声が受話器から聞こえた。「山口総監督、大変です。早くトレンドを見てください!」 由佳は「どうしたの?」と尋ねながら、急いでトレンドを開いた。各プラットフォームのニュースが次々と届いていた。 「社長と歩美さんが撮られたんです!」 アシスタントの言葉が終わるや否や、由佳はすでにニュースを開いていた。 アシスタントがしばらく由佳の声を聞かず、小声で尋ねた。「山口総監督、どう対処しますか?」 「歩美のチームに連絡して。まずは反応しないようにして、私が会社に行くまで待ってて」 トレンドには二人がレストランに出入りする写真が一枚と、ネットユーザーによる憶測が書かれていた。 双方のチームのレストランでの集合写真を公開し、コラボレーションの話題で盛り上がることができる。 「わかりました」 アシスタントが電話を切ろうとした時、由佳が彼を止めた。「待って、昨日の集合写真が手元にあるでしょ。社長と歩美さんが親密に見えない写真を選んでおいて」 「はい、わかりました」 由佳は電話を切り、急いで起きて顔を洗った。 会社に到着すると、アシスタントが駆け寄ってきた。「山口総監督!」
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第12話

清次は山口家の社長として、多くの経済ニュースにも登場してきた。かっこいい顔、引き締まった体格、裕福な家柄、さらにスキャンダルもなく、一部のファンからは「生まれつきの小説の主人公」と呼ばれていた。一方、歩美は美しい顔と成功したキャリアを持ち、海外でも良い成績を収めてきた。二人はまさにお似合いのカップルであり、家柄も釣り合っていた。加えて、ネット上での誘導により、多くのネットユーザーが二人の復縁を祝福し、一部のファンは二人をカップルとして支持し始めた。二人のカップルに関する話題がすぐに立ち上がり、「清歩夫婦」というハッシュタグも生まれ、あっという間に何万人ものファンを集めた。 ファンは二人の感動的なラブストーリーを書き、イラストレーターは二人をモデルにしたカップルのアイコンやQ版のイラストを描き、編集者は歩美が出演したドラマと清次の経済ニュースを編集して投稿した。 由佳がこのハッシュタグの投稿を見ていると、「今日清次と歩美は結婚しますか?」という名前のファンを見つけた。ネットユーザーはあらゆる事柄からてがかりを見つけた。彼らは、歩美が海外に出た後も清次がずっと独身でスキャンダルがないのは、歩美が帰国するのを待っていたからだと推測した。素晴らしい。 しかし、これらの言葉は由佳にとって、まるで鋭い刃のように彼女の心を刺し、血が滲むほどだった。彼女の手は震え、悲しくて、苦しくて胸がきゅっとなった。 「本当は私が清次の妻なのに」 清次は、残酷過ぎる。 由佳は深呼吸をし、携帯電話を切って立ち上がり、社長室に向かった。 彼女はドアの前で一瞬ためらった後、ドアをノックした。 「はい」中から清次の声が聞こえた。 由佳はドアを開けて、デスクの前に立ち、「社長、私は広報部の対応が適切でないと思います」と真剣に言った。 清次は目を上げ、冷たい目で由佳を見つめた。「どう不適切だか?どこが問題だ?」 「この件が起こった後、MQは歩美と結びつけられることになります。MQブランドの今後の経営方向や計画とは一致しません」 公の立場から言えば確かにそうだ。今やネット上では歩美がMQの社長夫人であると噂されていた。社長夫人が自社製品のブランドキャラクターを務めることになれば、MQと言えば歩美が思い浮かぶようになるだろう。 個人的な立場
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第13話

沈黙、静寂。 しばらくして、清次は口を開いた。「俺が焦ってしまった、申し訳ない……」 申し訳ない…… ふっ。 三年間の結婚生活で、彼が彼女に残したのは「申し訳ない」だけ。 「俺が悪かった。君が望むものは何でもするが、この件は歩美ちゃんには関係ない。彼女は俺たちが結婚していることを知らなかったんだ。彼女を攻撃する必要はない」 由佳は苦笑した。 これが清次、由佳の夫だ。 彼女に謝罪しながら、歩美を守るために彼女を脅した。 由佳は疲れ果て、もう清次と話す気力がなかった。「好きにすればいいわ」 そう言って、彼女は社長室を出て行った。 その背中は薄く、痩せ細っていて、どこか悲しげだった。 清次は由佳の背中を見つめ、目を細めた。その目は暗く沈んでいた。 突然、携帯の着信音が鳴った。 清次は携帯の画面を開き、電話に出た。 「清くん、トレンドの件、見たの?申し訳ないわ。もう少し注意していれば撮られなかったのに」と歩美の声が聞こえた。 清次が返事をしないので、歩美はもう一度呼びかけた。「清くん?」 清次は回復して、「大丈夫、もう解決したから、歩美に影響はないよ」 「本当に?ありがとう、清くん、本当に優しいね」 電話を切った後、菜奈は驚いた。「本当に仕事が早いわね。でも、由佳が破れかぶれになって、あの2人が既に結婚していることを公開したらどうする?」 歩美は携帯画面を見て、自信満々に言った。「彼女はそんなことはしないわ」 女の勘は最も鋭い。 三年前、歩美は由佳が清次を好きだと少し感じていた。 由佳はそれを隠していたつもりだったが、やはり見抜かれていた。清次のために、彼女が軽はずみな行動をとることはないだろう。 最近では、清次と一緒にいる時に、彼が変わったように感じることが増えた。彼が由佳の前でぼんやりすることも多かった。早く離婚をしないと、もっと好ましくないことが起こるだろう。 …… オフィスに戻った由佳は、書類フォルダーから離婚届を取り出し、自分の前に置いてしばらく眺めていたが、最終的には丁寧に自分の名前を書き込んだ。 清次の心が由佳のところにないのなら、無理に引き留める必要はない。 三年間の結婚生活は、これで終わりだ。 これから彼らは夫婦ではない。 由佳はアシスタ
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第14話

実家に到着すると、家政婦が彼らを迎えにきた。「お祖母様は台所で忙しいので、先に座っていてくださいね」 そう言うと、家政婦はお茶を入れ、果物の盛り合わせを出してくれた。 山口家のお祖母様は、普通の家庭に生まれ育ち、人生の半分以上の幸せを味わってきたのにもかかわらず、今も尚当たり前のように子供の世話をしたり、料理を作ったりするのが好きで、時には孫たちのためにマフラーを編むこともあった。 山口家の孫たちの間でどれだけ問題が起こっても、このお祖母様に対してはみんな非常に敬意を払っていた。 由佳は靴を履き替えている時に、家政婦に尋ねた。「お祖父様はどこにいるの?」 家政婦は上の階を指さし、「休んでおられます。最近、お祖父様の体調が悪化してしまっていて」 由佳と清次は聞いて、共に心配そうな顔を見せた。 山口家の事業は、お祖父様の前の世代から受け継がれたが、彼の手によって大いに発展した。若い頃に仕事で体を壊して、年を取ってからも体調が悪くなり、肝臓移植も受け、拒絶反応を抑制する薬を飲み続けていた。 「健太は何と言っているか?」と清次が尋ねた。 健太は六甲病院の院長で、お祖父様の専属医でもある。 「彼は最善を尽くすと言ってくれています」 清次は重々しく頷いた。 由佳は台所に行ってお祖母様を手伝った。 「由佳ちゃん、外で休んでいなさい。手伝わなくても大丈夫よ」お祖母様は由佳を外に追い出そうとした。 しかし由佳は、「お祖母様、外で座っているだけでは暇なので、手伝わせてください」 と言った。お祖母様は彼女をひと目見て、不満そうに言った。「どうして暇だなんて言うの?外で清くんとお話をしてなさい」 由佳が黙っているのを見ると、お祖母様はさらに口を開いた。「清くんと喧嘩したのかい?ニュースも見たけれど、心配しないで。彼を叱ってあげるから」 「お祖母様、私のことは心配しないでください。清くんとのことは自分たちで解決する」 「私が何も知らないと思っているのかい?清くんは由佳ちゃんが優しいからって由佳ちゃんを苦しめているんだよ。この馬鹿息子、何を考えているのか。由佳ちゃんは永遠に山口家の嫁だ。馬鹿息子が離婚したいと言うのなら、私は絶対に許さない」 お祖母様は全てを見透かしていた。 由佳は何も言わず、清次のために言い訳もし
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第15話

由佳はすぐに場を和ませようとし、箸でお祖父様に料理を取った。「お祖父様、このナスを召し上がってください。私が作ったんですよ。昔からこれが一番お好きでしたよね」 お祖母様も調子をあわせて言った。「見てごらん、由佳ちゃんはお祖父様のことをよく覚えているわ。私が嫉妬しちゃうわね」 「やっぱり由佳ちゃんは親孝行だな」とお祖父様は箸を持ち上げて、笑いながらうなずいた。「無情な人とは違う。俺を怒らせてばかりで、俺を早死にさせようとしている人とは」 無情な清次:「……」「お祖父様、そんなこと言わないでください。お祖父様はきっと長生きしますよ」 由佳の両親は彼女が幼い頃に離婚し、彼女は父親に引き取られた。実は母親が彼女を望まなかったのだ。以来、母親は一度も彼女を訪ねたことがなかった。 父親は仕事が忙しく、最初は彼女を祖父母に預けていたが、数年後に祖父母が相次いで亡くなり、彼女は父親のもとに引き取られた。 16歳の時、父親も亡くなり、彼女は完全に一人になった。 現在の祖父母が彼女を迎え入れ、温かさを与え、もう一つの家族をも与えてくれた。 親しい人々が次々と亡くなる苦しみは、もう耐えられなかった。彼女ほど祖父の健康と長寿を望んでいる人はいないだろう。 食事の間、清次以外の三人は特に和やかだった。 由佳は祖父母を楽しませようと工夫し、彼らと会話を交わし、笑顔を絶やさず、本当に家族のように見えた。 家政婦も言った。「由佳さんが来ると、お祖父様が以前より元気ですね」 食事が終わると、由佳はお祖父様としばらく将棋を指した。 由佳の将棋の腕前はお祖父様が手取り足取り教えたものだが、急速に上達し、お祖父様自身も油断できないほどになった。将棋を指すときのお祖父様の真剣さは段違いだった。 「お祖父様、それは反則です!」 お祖父様が手を入れると、由佳は不満で叫びながらも、目には笑みが浮かんでいた。明らかにお祖父様との将棋を楽しんでいるのだ。 「いや、これは反則じゃない。まだ駒を置いてないんだ」お祖父様は堂々と駒をつまみ上げ、別の場所に置き直した。 「本当にここでいいんですね?」 お祖父様は由佳をチラッと見て、少し躊躇してからうなずいた。「そう」 由佳はすぐに自分の黒い駒を置いた。「やった、お祖父様の負けです!」
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第16話

二人は午後、実家を離れた。 車の中で由佳は言った。「お祖父様の態度を見てもわかったと思うが、お祖父様は私たちの離婚を反対している。これからどうするつもり?」 清次は窓の外を見ながら、ため息をついた。「先に離婚届を出して、お祖父様には隠しておいて、後でゆっくり伝える」 結局、彼はこの選択を変える気は全くなかった。お祖父様に厳しい言葉を言われても、隠し通し、逆らうつもりだ。 由佳は重たい息を吐き、息をするたびに心に痛みを感じた。彼女は視線を落とし、黙って頷き、かすれた声で言った。「わかったわ、いつ離婚届を出しに行くの?」 清次は携帯でスケジュールを確認しながら答えた。「ここ数日は忙しいから、来週の月曜日に」 「わかった」 由佳のそっけない返事を聞いて、清次は口を閉じ、彼女をちらりと見た。 正直に言って、由佳はとても美しい。桃の花のような目は、時に柔らかく、時に鋭い。柔らかい時には人々を夢中にさせる魅了を持ち、鋭い時には射るような目指しで圧倒的な存在感を放っていた。 彼女は綺麗なな卵形の顔で、流れるような美しいライン、かわいくもあり鼻筋の通った鼻、小さくぷっくりとした唇、笑うと頬にに小さなえくぼができ、さらに愛おしさが増す。由佳の体はしなやかで美しく、しっかりと自己管理がなされている。週に数回は仕事の後にヨガに通い体を鍛えている。 清次はこのことをよく知っている。この三年間の夫婦生活で、清次はかなり彼女の虜になっていた。 目を閉じると、清次はその歓楽極まりて哀情多き時の感覚を思い出すことができた。 また、彼女はきれいなだけではなく、頭もいい。大学時代には優秀な成績で奨学金を獲得し、全国英語弁論大会にも参加し、国費留学の機会を得ていた。仕事でも全てをきちんとこなす上MQを予想はるかに超えて以上に成長させたのだ。 これほど優秀な女性が、男性に好かれないわけがないだろう。 離婚したら、彼女は誰と結婚するのだろう。清次は突然、好奇心旺盛な様子で尋ねた。「好きな人はいるのか?」 由佳の心は一瞬ドキッとし、清次をひと目見した。「いる」 それは目の前の彼、清次のことだ。由佳は彼に10年間も思いを寄せていた。 父を失って間もない頃、彼女は山口家に来て、とても緊張した様子を見せていた。その時のことは
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第17話

広告の撮影が始まり、由佳は事前に撮影スタジオに到着し、スタッフに撮影準備の指示を出していた。しばらくして、カメラマンとメイク担当も到着した。この二人は由佳の長年のパートナーで、由佳が望むイメージを一言で理解してくれる。現場の撮影準備がほぼ完了し、由佳が時計を見ると、すでに9時近く、約束の時間を30分過ぎているのに、まだ歩美とそのチームは到着していなかった。アシスタントはすでに一度催促した。カメラマンの北田がカメラをいじりながらぼやいた。「歩美のつれない態度は本当にすごいね」 メイク担当の高村があざけりわらった。「仕方ないわよ。海外帰りだし、大物ぶりたいのよ。私たちはどうしようもない。由佳ちゃんも大変ね」誰もが知っていることだが、この広告のキャラクターは社長が指名したものだ。普段なら由佳がMQブランドのイメージキャラクターを決めるのだが、今回は決めることできなかった。歩美がどんな態度で来ようが、全て受け入れなければならない。由佳は電話を取り出し、菜奈の電話番号を探して直接電話をかけた。電話が通じると、呼び出し音が聞こえ、その後すぐに切られた。 高村は驚いて憤りを覚えた。「本当にひどい。社長が後ろ盾だからって、由佳ちゃんのことを蔑ろにするなんて」しばらくしても、状況説明のメッセージや連絡が来何もなかったので、由佳は再び電話をかけた。しかし、またもや切られた。何度かけても通じなかった。由佳は携帯をしまい、北田と高村に言った。「多分、彼らは遅くともお昼には来ると思う。先に帰ってください。必要なときにまた連絡する」長年働いてきた由佳は、顧客の性格をよく知っている。菜奈が何を考えているか、協力の話をした日から理解していた。 高村はせせら笑った。「こんなにも思い上がった人に会うのは初めてだ。海外で数年過ごしてちょっと箔をつけただけで、国内外でトップ賞もトップの興行収入もないのに、どこからそんな自信が湧いてくるんだろうね?」 「気にしないで。後日、食事をご馳走する。今日はご苦労さま」と由佳は言った。 「それでは、先に帰るね」北田と高村は由佳に挨拶をして、撮影スタジオを後にした。由佳はスタジオを離れず、アシスタントにノートパソコンを持ってこさせて、休憩室で仕事をしていた。外から騒がしい声が聞こえて
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第18話

会議が終わった。清次は椅子に寄りかかりながら眉間に皺を寄せた。この時、携帯電話が鳴った。清次は携帯を手に取り、画面を見て電話に出た。「もしもし」 「清くん、会社にいる?今から会いに行くわ」 清次は机の上のスケジュール表を見た。「今日はこんなに早く撮影が終わったのか?」 歩美は言いたいことをためらいながら答えた。「今日は…今日は撮影がなかったの」 「撮影がなかった?どうして?」清次は尋ねた。 彼がトイレに行ったとき、由佳のオフィスのドアが閉まっているのを見た。彼女は外出していたようだ。広告撮影のたびに、由佳は現場で監督をしていた。彼女が撮影スタジオに行ったのに、撮影がなかったとはどういうことだろう? 「私たちが撮影スタジオに到着したとき、由佳ちゃんが急用ができて撮影できないと言って帰ってしまったの。何があったのかは分からないの」 「何か緊急事態があったんだろう。撮影がなかったのなら、会社に来て」 この3年間、清次は由佳の仕事に対する姿勢をよく分かっていた。本当に特別な状況でない限り、彼女が撮影を中止するはずがない。清次の由佳に対する非難がない返答を聞いて、電話の向こうの歩美は冷笑して、優しく言った。「私も何か特別な事情があったんだと思うわ。ところで、清くん、一つお願いしたいことがあるの」 「何?」 「今回の撮影で、自分のメイクアップアーティストを連れて行きたいの。この数年間海外にいたせいで、少し体調が悪くて、肌の状態も良くないの。国内のメイクアップアーティストだと私の肌の状態を分かってなくて、期待通りのメイクができないかもしれない。私のメイクアップアーティストは私の肌のことを1番理解しているし、最高の状態に仕上げてくれる」 清次は大したことではないと思っていた。「こんな小さなことも俺に報告するのか?」 歩美は言った。「これは小さなことじゃないわ。仕事のことはどんなに小さくても、きちんとコミュニケーションを取るべきだよ。お互いに尊重すべきだよ。清くん、この広告が大事だから、全部に気を配る必要があるの。事前に報告しないと、誰かに大物ぶっていると思われるかもしれないから」 「歩美ちゃんの言う通りだ」 歩美がこんな小さなことも清次に報告するのに対し、由佳は今日の撮影中止を事前に通知しなかっ
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第19話

清次が既に同意していたのだと分かると、由佳は突然滑馬鹿らしく感じてきた。歩美のために、清次は何度もMQの事に首を突っ込んできた。歩美のために、清次は何度も彼女の計画を乱し、彼女に後片付けをさせた。以前のマーケティング計画は既に実行準備が整っていたが、ブランドキャラクターの変更で無駄になってしまった。清次は彼女がどれだけの努力を費やしてこの状況を維持しているのかを全く知らなかった。彼がすることは歩美を喜ばせることだけ。事が面倒になるかどうかは由佳自身の問題だ。彼が気にするはずがないのだ。高村はこれを聞いてとんでもないことに感じた。「社長が同意した?社長がこんな小さなことに関わるなんて信じられないわ」 歩美は笑った。「高村さんもこれが小さなことだと分かっているのね。清くんは私に決めさせたのよ」 高村は言った。「歩美さん、誰でも分かることなんだけど、私が言っている小さなこととは社長にとっては相対的に小さいことであっても、メイクやスタイリングは撮影において非常に重要なことなの。私が信じられないのは、社長がこの件に関わっているということよ」 菜奈は言った。「歩美ちゃんが嘘をついていると思ってますか?山口総監督、もし信じられないなら、社長に電話して確認してください。この件は社長から許可を得たものであり、私たちは絶対に妥協できません。ご理解いただけないようえあれば、契約を解除していただいて結構です。歩美ちゃんはこの仕事がなくても困りませんから」 歩美は横に立って何も言わなかった。 高村は菜奈に腹を立てて、拳を握りしめた。メイク室を出た彼女は、手のひらを叩きながら言った。「この業界で長年働いてきて、たくさんのスターと協力してきたけど、こんなに図々しい人は初めて見たわ。もしこの仕事が必要ないなら、なぜ池田さんから奪い取るの?本当に嫌な気分になるわ!」 高村は業界で有名なメイクアップアーティストで、多くの映画やテレビスターと協力してきた。昨年、あるネットドラマの主役が大ヒットし、そのヒロインも大きな注目を浴びたが、顔立ちが平凡で顔の輪郭が鈍いとよく批判されていた。しかし、高村の指導の元で撮影した写真が一気に注目を集めた。 北田も先ほどの様子を全て見ていた。彼女は高村を慰めた。「怒らないで、この件をどう対処するか考えよう。彼
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第20話

由佳はしばらく立ち尽くして地面の携帯を見つめ、ゆっくりと身をかがめて拾い上げた。由佳、もう自分を辱めるのはやめよう。最初から清次の心が偏っていて、彼はいつも歩美の味方だったのだ。昨日のことも、清次が真実を知りたければ、確認すればすぐにわかるはずだった。ただ、彼は歩美の言葉を信じただけなのだ。これが男にとって忘れられない初恋相手というものなのだろうか。「山口総監督、高村さんと北田さんが休憩室でお待ちです」 アシスタントが由佳が立ち尽くしているのを見て、そっと近づいて声をかけた。 「分かった、すぐに行く」由佳はすぐに気持ちを整え、大股で休憩室へ向かった。「どうだった?社長は何て言った?」由佳が入ると、高村がすぐに尋ねた。北田も期待していた。 由佳は首を振った。北田はため息をついた。 高村は驚いた。「まさか、社長は賢いと思っていたのに、実際は馬鹿だったなんて」 「それで、これからどうするの?」 「彼らと話をして、若干の調整をお願いしてみる。あとはいくつかの道具を借りよう。北田さん、加工の時にも見ていてほしい。今ちょっとアイデアが浮かんだから、今晩帰ったら例の図を送るわ」由佳が言った。 「分かった」 由佳は再びメイク室に戻り、歩美のチームと再度話し合い、現状のメイクとスタイリングを微調整した。 由佳の心には既に不満があったが、彼女はMQの責任者であり、その責任も彼女にかかっているため、自分の仕事の責任を果たさなければならなかった。もし広告の効果が芳しくなければ、MQの責任者として由佳は必ず影響を受けるだろう。 歩美にとっては、その影響はさらに大きい。以前、歩美と清次が撮られて、歩美がMQのブランドキャラクターに選ばれたとと確認したとき、ネットでは和やかな雰囲気だったが、実際には一波乱があった。池田さんも人気があり、多くのファンがいるため、広告を奪われた池田さん側は由佳の説明にを納得したが、ファンに陰で囁いたことにより、池田さんのために歩美のSNSで論争を巻き起こした。もしこの広告の効果が良くなければ、歩美は間違いなく冷やかされるだろう。これは彼女が帰国してからの最初の広告であり、非常に重要だった。歩美は由佳の提案を受け入れるしかなかった。なんとかメイクとスタイリングの問題を解
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