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第0208話

綿は輝明を見つめながら、自分自身にも問いかけた。本当に彼をまだ愛しているのか?おそらく、少しだけの愛は残っているかもしれない。

でも、それはただの未練に過ぎないのかもしれない。

彼の整った顔立ちを見つめると、結婚したばかりの頃のことが頭をよぎる。

玲奈が「綿、本当に彼のことがそんなに好きなの?結婚して冷たくされても、どうしても彼と一緒になりたいの?」と尋ねたとき、彼女は「愛してる、彼以外は考えられない、一生彼だけだ」と強く答えていた。

でも、今ではその強い気持ちを持って彼を愛していると言う勇気はもうない。

綿の口元に微かな笑みが浮かんだ。今回は、輝明の前で少しでも尊厳を持って生きてみせる。

彼女の視線に、輝明は心の奥がざわつくのを感じた。綿のその微笑みは、まるで彼の心に突き刺さる刃のように鋭く、痛みをもたらした。

綿は静かに口を開き、「おばあちゃん、もう本当に彼を愛していません……」と告げた。

その言葉に、輝明の心がギュッと締め付けられるのを感じた。彼女が何度も「もう愛していない」と言っていたにもかかわらず、今こうして彼の目を見ながら微笑みを浮かべてそう言われると、胸の奥に刺さる痛みが一層強まった。

彼は大学時代のことを思い出さずにはいられなかった。彼女が彼の前に立ち、同じように微笑みながら言った、「輝明、秘密を教えてあげる」と。誰もが知っている秘密だった。

彼女は初めて彼の耳元に顔を寄せて、小さな声で愛しげに「輝明、好き」と囁いた。

輝明は膝に置いた手をぎゅっと握りしめ、もうその思い出に浸ることはできないと感じて、俯いた。

綿は彼が目を伏せたのを見ると、さらに穏やかな笑みを浮かべて、「もう彼をこれ以上縛りつけるのはやめましょう。彼を自由にしてあげましょう」と言った。

輝明を解放し、自分自身をも解放する。

綿はコーヒーを一口飲んだ。

彼女が注文したのはアイスアメリカーノで、その苦さと渋みが喉に沁みた。冷たい飲み物が心の奥まで凍らせ、眉間に冷たく鋭い痛みが走るのを感じた。

どうやら、今日のスタッフは機嫌が悪かったのか、豆と氷が多めに入っていたみたいだ。

秀美は綿を見つめながら、目に涙を浮かべた。「綿ちゃん……」

この数年、綿が高杉家に嫁いでから、彼女がどれだけ苦労してきたかを思うと、胸が痛む。

輝明はゆっくりと顔を上げ、綿を見つめ
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