第0209話

彼は眉をひそめ、綿を見つめる眼差しに複雑な感情が浮かんでいた。

綿はおばあちゃんの言葉が彼を困惑させたことに気づいた。

彼女も、輝明が自分を誤解するのを恐れ、あえて彼を引き留めようとしているわけではないと、しっかりと説明した。

「私はそんな無茶な要求をしません。心配しないで」綿は微笑んで答え、彼に安心感を与えようとした。

しかし、綿がこうして率直に説明するほど、彼は逆に胸の内がざわつくのを感じた。

バタン——個室の扉が勢いよく閉まる音が響いた。

綿は自然と顔を伏せ、その笑顔がゆっくりと消えていった。

美香は深い息をつきながら言った。「綿ちゃん、おまえったら……」

「彼がさっき迷っていたこと、気づかなかったの？それはつまり、彼が本当は——」

「おばあちゃん、他に何かありますか？」綿は美香の言葉を遮った。

彼女は恐れていた。もしおばあちゃんが「輝明は本当は離婚したくない」と言ったら、どうしようと。

綿が輝明と結婚したその日から、おばあさんはいつも言っていた。「輝明は必ずおまえを愛するようになるよ。それは時間の問題だ」

そんな甘い言葉に、綿はずっと騙されてきた。彼女はその夢を描き続け、その一言を信じて生きてきた。

しかし、これ以上その夢にすがりつくことはできない。

もうこれ以上、苦くて硬くなったその夢の破片を噛みしめたくはなかった。

美香は無力感を感じながら、そっと秀美の方を見た。彼女にも何か言ってほしいと願っていた。

秀美はよくわかっていた。おばあさんの言葉でさえ力を失ってしまった今、自分が何を言っても効果はないだろうと。

しばらくの間、個室は静寂に包まれ、三人の呼吸音だけが聞こえる。誰かがため息をつき、誰かが浅く息をし、そして誰かが静かに口を開いた。「別れましょう」

綿と美香は同時に秀美を見つめた。

「おまえは輝明を長い間縛り付けていたと言うけれど、本当は私たちが、あんたを縛り付けていたんだ。……離婚しましょう」

当時、輝明が綿と結婚したがらなかったとき、彼を無理やり結婚させたのは私とおばあさんだった。

だから、綿が今こうなってしまったのは、私とおばあさんのせいだ。

綿は本当に素晴らしい女性だ。彼女を高杉家の人間にできなかったのは、高杉家の不運だ。

「離婚しましょう」秀美は首を振りながら、完全に覚悟を決めた。

ただ一人、