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第0210話

綿は顔を上げ、もう一度彼を見つめた。彼の表情は険しく、手に持ったタバコを握りしめていた。

綿は本当にタバコの煙が嫌いだった。それはまるで、どんなに振り払っても消えないもののように感じた。

もちろん、彼女が言っているのは煙の匂いだけでなく、自分自身の存在も同じように感じていた。

綿は微笑んで、静かに言った。「輝明、ごめんなさい」

この言葉を口にした瞬間、彼女は本当に心の中で解放された。

輝明は目を伏せ、喉が動いた。そして、タバコを消しながら言った。「さっき部屋で言ったことを、もう一度言うよ」

彼は眉をひそめ、これまで綿に見せたことのないほどの忍耐と真剣さを込めて、言葉を繰り返した。「君が何を望んでも、僕はそれに従う」

綿はしっかりとうなずいた。「うん、離婚しよう」

輝明はタバコの火を押しつける手に力を込めた後、軽くうなずいた。「わかった」

「いつにする?」輝明は彼女に尋ねた。

「今日は無理そう。午後は小栗先生と手術があるから、明日の午前中でどう?」綿はとても優しく彼に尋ねた。

輝明は彼女の美しい瞳を見つめながら、心の中で何かが引き裂かれるような感覚に襲われた。そして答えた。「いいよ」

「もう一つお願いがあるんだけど」綿が言った。

彼はうなずき、彼女の言葉を真剣に聞きながら、「言ってごらん」と促した。

「明日の朝、家まで迎えに来てくれる?」綿は両手を後ろに組み、少し試すような口調で言った。

彼は少し眉をひそめた。綿のこの提案が理解できなかったようだ。

「別に深い意味はないの。私がまた何か企んでいると思わないでね」綿は唇を噛み、自己弁護するように続けた。

「結婚するとき、あなたに迎えに来てって頼んだけど、あなたは来なかった。でも、離婚する時は積極的に来てほしいな」

綿は眉を上げ、軽い口調でまるで「ちょっとしたいたずら、ちょっとした報復よ。さもないと、離婚なんてできないわよ」とでも言いたげに続けた。

輝明は冷笑し、小娘の無意味な遊びに付き合う気はないといった表情を見せた。「わかった。明日の朝9時に迎えに行くよ」彼はそう言った。

「早めにお願い、8時がいいな」綿は提案した。

「君、いつも寝坊するのが好きじゃなかったっけ?」

「でも、明日は平日だしね」二人は並んで歩きながら、まるで自然に会話を続けた。

「でも、どうして私が寝坊するの
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