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第0212話

彼が綿に尋ねた。「見つかったのか?」

綿は体を少し横に向け、輝明と向き合った。

「高杉さん、私のこと信じてくれる?」

「本当に、わざと離婚を引き延ばそうとしているわけじゃないの。身分証がなくなっちゃったんだ」綿は手を挙げて誓うように言った。「本当に失くしちゃったの」

輝明は綿の申し訳なさそうな表情をじっと見つめ、胸の中で何か複雑な感情が渦巻いた。

「二日だけ時間をちょうだい。新しいのを作るから、そしたら離婚しよう」綿は両手を合わせて頼み込んだ。

輝明は彼女を見つめ、しばらくの間黙っていたが、ついに「わかった」と答えた。

綿は安堵の表情を浮かべ、「OKOK」と何度も頷いた。

「仕事場まで送るか?」彼が尋ねる。

綿は首を振り、「自分の車で行くよ」そう言って、車を降りた。

輝明は彼女の薄い背中を見つめながら、突然彼女の名前を呼んだ。「桜井綿」

「はい!」彼女ははっきりとした声で応え、その声は耳に心地よく響いた。

輝明の胸がきゅっと締まった。昨日から、彼女はなぜか軽やかな様子で、何かが変わったように感じられた。

片手でハンドルを握りながら、もう片方の手をスーツのポケットに入れて、彼はその手を強く握りしめた。

綿が首をかしげ、「どうしたの? 高杉さん」と尋ねた。

輝明は首を横に振り、「いや、何でもない。身分証が再発行されたら、連絡してくれ」

「うん、わかった」綿はそう応えて、車から離れていった。

彼女が去った後、輝明はポケットから身分証を取り出した。

彼はその身分証に写る綿の美しい顔を見つめながら、胸の中で何かがじわじわと彼を蝕んでいくのを感じた。

綿の車が屋敷から出て行くのを見上げながら、輝明は喉がごくりと動いた。そして低い声で、心の中で彼女の名前を呟いた。「綿……」

……

綿は身分証の再発行を終え、病院へ向かう途中、身分証をどこに置き忘れたのか考えていたが、結局思い出せなかった。

病院に到着すると、前回見かけた刑務官と警察たちがまた目に入った。彼らは前回、口から泡を吹いていた男性を連れて車に乗り込んでいた。

どうやら彼は無事に救急治療を受けたようだ。しかし、たった二日間の入院でまた連れ戻されるとは…。

綿は肩をすくめ、すぐに上階へ向かった。

「知ってる? 嬌はまるで林黛玉みたいに、儚くて繊細なんだから!」

「ははは、まるで花
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