共有

第0186話

綿は、自分が輝明を救った後、水を恐れるようになったことを嬌が知っているのに、それでも海に投げ込もうとするなんて、と考え、急に後悔の念が湧いてきた。

あの時、嬌にその話を打ち明けたことを悔やんだ。

綿が輝明を助けたことを知っているのは、ほんの一握りの人間だけで、嬌もその一人だった。

「分かった」と綿は冷たい声で答えた。

男はおどおどしながら、「頼む、放してくれ」と懇願した。

綿は口元を歪め、「あなたが私を誘拐したんでしょ?私が頼むほうじゃないの?」と皮肉を込めて言った。

男は唇を引きつらせた。綿が彼を侮辱しているように感じた。

というか、彼女はまだ自分が誘拐された人質だということを理解しているのか?

しかし、男は生き延びるために両手を合わせて、「桜井さん、どうか見逃してください」と懇願した。

綿は頷き、「見逃してあげてもいいけど、その代わりに、私と一つ芝居をしてもらうわ」と冷静に言った。

男はすぐに頷いて、「桜井さん、もう友達ですからね。何でも言ってください」と答えた。

綿は冷たく笑った。「誰が友達だって?」彼女と友達になりたいなんて、身の程を知りなさいよ。

「陸川嬌に伝えなさい。仕事は無事に終わって、桜井綿は死んだとね」と綿は真剣に言った。

男は驚きの表情を浮かべた。なぜだ?

しかし、彼は何も尋ねず、ただ頷いた。

「でも、陸川さんが写真を要求してきたら、どうするんですか?海に行かないと写真は撮れませんよ?」と男は尋ねた。

綿は目を細め、男の頬を軽く叩きながら言った。「誠実じゃないわね」

男は綿を罠にはめようとしたのか?

海が目的地なら、待ち伏せがあるに決まってるのだ。綿が行ったら、自殺行為じゃないか?

「自分でなんとかしなさい!」そう言って、綿は男を車から蹴り出し、「二度と私の前に現れるな。もしまた会ったら、そのたびに痛い目に遭わせるからね!」

そう言い放つと、綿は車を発進させ、その場を後にした。

残されたのは、ボスと運転手が風に吹かれる中、呆然と立ち尽くしていた。

「ボス……」運転手はボスを呼び、「陸川さんは桜井さんがただの役立たずで、恋愛に溺れているだけだと言っていましたが、これは一体どういうことっすか?」と、まだ麻痺している自分の手を見つめながら、不満を漏らした。

これが恋愛に溺れた役立たずだって?

恋愛に溺れた
ロックされたチャプター
この本をアプリで読み続ける

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status