第0190話

綿は目を細め、一歩前に進み出た。いったい自分の何が気に入らないのか、聞いてみようと思った。

綿が近づくと、易は言葉を失った。

あまりにも近すぎたのだ。

彼は喉を動かし、綿の美しい大きな瞳を見つめた。

易は眉をひそめ、喉元が鳴るのを感じた。綿の瞳は、若い頃の母を思い出させるものがあった。

彼は低い声で言った。「とにかく、今後、妹に近づかないでくれ！もし妹に何かあったら、その時は僕に言って！」

易が嬌を大切にする理由は、他人の娘を大事にすることで、自分の本当の妹も養父母から大切にされることを願っているからだった。

日奈……彼の実の妹。

もし日奈が家に戻ってきたら、嬌以上に大切にしてあげるだろう。絶対に怒鳴ることもせず、世界中の一番いいものをすべて日奈に与えるはずだ。

「桜井綿、自分の行動には気をつけるんだな！」そう言い残し、彼は病室に戻っていった。

ドンと音を立ててドアが閉まった。

綿は目をぐるりと回し、心の中でつぶやいた。自分の行動に気をつけるべきなのは、むしろ妹の方じゃないの？

さっきの嬌の様子、どう見ても後ろめたいことがあるとしか思えないのだ。

綿が病棟から出ると、桑原看護士が彼女を呼び止めた。「桜井先生！桜井先生！」

綿は顔を上げ、「どうしたの？」

桑原看護士は息を切らしながら駆け寄ってきた。「昨日のDVの男と女性患者さん、覚えている？」

綿は首をかしげて考えた。あの警察に連れて行かれた男のことか？

「その女がまた暴行されて、緊急救命室に運ばれた！」と桑原看護士が言った。

綿は驚いて、「誰がやったの？」

「もちろんその夫だよ！他に誰がいるの？」と桑原看護士は両手を広げて答えた。

綿は足を一歩前に進めたが、昨日の出来事を思い出し、再び立ち止まった。

それぞれの運命があるのだから、自分が余計なことに関わるのはやめよう。自分を守ることさえ難しいのに、泥沼にはまった弱い女を助けることなんてできるわけがない。

綿は入院棟に向かい、祖父に会いに行った。

山助の体調はすこぶる良く、綿を見るなり「綿ちゃんよ、いつになったらじいちゃんを退院させてくれるんだ？」と聞いた。

「おじいちゃんは寂しくてたまらないんだ！」

綿は彼をちらっと見て、リンゴの皮を剥きながら言った。「退院して何をするの？またあのお坊さんに会いに行って、お金を渡すの