共有

第0189話

綿は足を止め、易と視線を交わした。

そのとき、嬌の小さな声が聞こえた。「綿ちゃんを入れて、お兄ちゃん」

易は冷たく綿に言った。「妹にはちゃんと礼儀をわきまえろ」

綿は微笑んで答えた。「陸川さん、私がいつ妹さんに無礼を働いたことがありましたか?」

そもそも、嬌が陸川家の大切な娘であり、二人の兄が彼女をどれほど大事にしているかは、誰もが知っていた。そんな彼女を兄たちの前でいじめるなんて、自分から災いを招くようなものだった。

綿もそこまで愚かではなかった。

易はそれ以上何も言わず、綿を病室へと案内した。

病室では、嬌が点滴を受けており、顔色はひどく悪く、まるで血の気がなかった。

綿が部屋に入ると、嬌の目は驚きに見開かれていた。

綿は白衣を着ており、その下には淡いグリーンのシャツと黒いズボンを合わせていた。彼女は手をポケットに入れ、静かに嬌を見つめていた。

嬌は唇を動かし、点滴を受けている手が自然に震え始めた。綿を上から下まで見つめ、不信と恐怖がその目に浮かんでいた。

本当に綿だった。無事だったのか?

昨夜、嬌の手下が綿を「解決した」と言っていたのではなかったのか?

もし綿が無事なら、昨夜あの病室に来たのは何だったのか?夢だったのか、幻覚だったのか?

綿は、嬌が明らかに震えているのを見逃さなかった。

「被害者が無事でいるとき、最も動揺する人こそが、犯人である証拠だ」という言葉があったが、綿はまさにそれを感じた。

「嬌」と綿が彼女を呼びかけた。「大丈夫?」

嬌はただ綿を見つめるだけで、頭の中には昨夜の綿の声が響いていた、「命を返せ」と。

「陸川嬌?」綿はもう一度彼女を呼んだ。

嬌はただ綿を見つめ、恐怖と不安に満ちた目でぼんやりとしていた。

綿は本当に生きていた。

綿が自分を殺そうとしたことを知っていて、昨夜あえて自分にプレッシャーをかけるために来たのか?

綿は目を細めた。嬌は彼女がまだ生きていることに失望しているに違いなかった。

易は嬌の異常を察知し、病床に近づいて優しく呼びかけた。「嬌ちゃん?」

嬌は突然目を覚まし、綿の深い瞳に気づいた瞬間、身震いした。

「お兄ちゃん…」嬌は易の腕をつかみ、涙をこぼしながら震える声で言った。「怖い…」そう言って、綿に怯えるような目を向けた。

易は綿を見つめ、嬌が目覚めたときに最初に言った「
ロックされたチャプター
この本をアプリで読み続ける

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status