第0193話

陸川夫人は、助け舟を出してくれたと思った瞬間、目の前に現れたのが綿だったため、その表情が一気に曇った。

綿は陸川夫人を見回した。彼女は集まっている貴婦人たちの中でも際立って美しく、服装も上品だった。

陸川夫人は着物が特に好きなようで、今回もまたその優雅な装いだった。

顔はとても整っていて、五十歳を過ぎてもその美しさは健在だった。

陸川夫人は鼻で笑い、「あんたもここにいるのね」と冷たく言った。

綿は微笑んで、「横浜は広くないし、美味しいレストランも限られてるから、ここで会っても不思議じゃないですね」と軽く返した。

陸川夫人は眉をひそめ、綿のテーブルに目をやると、彼女が一人で食事をしているのを見て言った。

「桜井さん、ずいぶんと寂しそうね。食事くらい誰かと一緒にしたら？」陸川夫人は口元を歪めて言った。「うちの娘とは違って、食事も買い物も、いつも高杉社長が一緒にいてくれるわ」

綿の心が一瞬揺れ、笑顔は少し硬くなった。

「そういえば、高杉さんは旦那さんだったわよね？」陸川夫人は遠慮なく皮肉を込めて言った。

綿は気持ちを立て直し、微笑んで答えた。「ええ、でも陸川さん、他人の夫が特別お好きみたいで、私にはどうしようもないですわ」

陸川夫人は一瞬たじろいだ。

周りの貴婦人たちは顔を見合わせ、次の瞬間、くすくすと笑い声が漏れた。

まるで嬌が他人の夫に夢中になっていると非難されているようだった。

綿は心の中でため息をついた。この陸川夫人という女は、本当に愚かだ。娘が他人の夫を追いかけているのに、それをまるで誇らしげに話すなんて。なんて恥知らずな一家なんだろう。

陸川夫人は自分が言い負かされたと感じ、顔を上げて反論した。「それはあんたが旦那をちゃんと繋ぎ止めておけなかったからでしょう？だから他の人に狙われたのよ」

「陸川夫人のおっしゃる通りです。だから、そのゴミはお譲りします。どうぞお好きに」と綿は唇をゆるめて言った。

その言葉に続いて、司礼が戻ってきた。

陸川夫人の顔はさらに険しくなり、声を荒げた。「うちの娘をゴミ箱扱いするなんて、どういうつもりなの！」

「桜井綿、あんたが無能だからって、他人を貶めるのはやめなさい！」

司礼は遠くからその怒声を聞きつけ、急いで綿の前に立ち、微笑んで陸川夫人を宥めた。「陸川夫人、何があったんですか？そんなに怒って