第0197話

綿は顔を上げ、輝明の手の甲から血が滴っているのを見た。

「あなたも同じじゃない？」と、綿は睨みながら言った。

「でも、良いことは結果を求めずにするものだ」輝明は、さっき山田枝子が立っていた場所に立ちながら答えた。

綿の心が一瞬揺れた。

「桜井、覚えてる？君も昔、ビールから飛び降りるって言ってたことがあるんだぜ？」

綿「……」

「覚えてないのか？じゃあ、俺が思い出させてやるよ」輝明は眉を上げ、しゃがみ込んだ。

彼は微笑みながら続けた。「去年だったな。ある夜、君からメッセージが来て、『病気で辛いから、帰ってこなかったら飛び降りる。遺体は拾ってね』って言ってた」

綿の顔色が一気に沈んだ。

確かに、そんなことを言ったことがあった。あの頃の自分は、なんて愚かだったんだろう。

輝明のためなら、どんな馬鹿げたことでも言いかねなかった。

でも、結局命を投げ出すようなことはしなかった。それを思い返すと、今の自分が恥ずかしくなった。

輝明は綿の険しい表情を見て、さらに笑みを浮かべながら続けた。「それから三ヶ月前もだな。俺に会えなくて、また飛び降りるって言ってたよな？」

「どこから飛び降りるつもりだったか覚えてるか？高杉ビルから飛び降りるって……」

綿はそのまま背を向けて歩き出したが、輝明が彼女を呼び止めた。「もう飛び降りる気はなくなったのか？」

綿は足を止めた。

山田枝子のことを通じて、彼女はようやく気づいた。そんな行動で男の関心を引こうとしても、逆に嫌悪感を抱かせるだけだということに。

愛されるかどうかは、無理に求めるものではなく、自然と生まれるものなのだ。

綿は輝明を見つめ、微笑んだ。「もう飛び降りないわ。あなたのために、他の馬鹿なこともしない」

綿は明るく笑い、天台の光が彼女を照らし出した。その姿は、まるで高校時代に戻ったかのように見えた。

高校時代、彼女はいつもこんなふうに彼に微笑みかけ、「明くん！」と呼んでいた。

長い間、彼女はこんなふうに笑ってくれたことがなかった。

いつの間にか、二人の関係は対立するばかりになっていた。

「高杉、山田枝子が私に教えてくれたように、いつか誰かがあなたにも教えてくれるといいね」綿はそう言って、手を振った。

輝明は綿の後ろ姿を見つめた。彼女の背中は、まるで何も引きずることのないかのように、軽やかで、