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第0205話

輝明は綿の手首をしっかりと握り、そのまま綿を壁に押し付けた。彼女の背中にある蝶のタトゥーが、輝明の目に飛び込んできた。

輝明の眉間がぴくりと動き、彼の頭の中に、ぼんやりとした少女の顔が一瞬よぎった。彼の呼吸が、少し重くなる。

綿は壁に体を押し付けられたまま、怒りのこもった瞳で輝明を睨みつけ、もがきながら「放して!」と罵った。

輝明は綿の背中にある蝶のタトゥーをじっと見つめ、喉がごくりと鳴った。彼の手はさらに強く、そして声も低く、「この傷、どうしてできた?」と尋ねた。

綿は彼を睨みつけたまま、「放して、さもないと、本当にやるわよ!」と怒りを露わにした。

輝明はその言葉を聞いて、まぶたを少し持ち上げ、彼女を見つめた。その長くて濃いまつ毛が、薄暗い洗面所の中で彼の輪郭をさらに曖昧にしていた。

「答えろ!」彼は苛立ちを隠せずに叫んだ。

綿は顔をそむけ、彼の手に捕らえられたまま、無理やり抑えつけられるこの状況に屈辱を感じた。

輝明の心の中には、不安が渦巻いていた。綿のこの傷が、ただのものではないと感じていたのだ。

この世界に、本当に同じ傷を持つ二人の女性が存在するのだろうか?

以前、綿はこの傷が子供の頃、花瓶に倒れてできたと説明していた。彼女が何年も輝明に気にかけられなかったとしても、高校時代にはいつも美しいドレスを着ていたことを彼は覚えていた。

その当時、綿の体には傷など一切なかったはずだ。

監獄にいたあの男は、かつて彼を救ったのは嬌だと言っていた。

だが、入院していたとき、綿は一度も見舞いに来なかった。彼をあれほど愛していた彼女が、彼が負傷したときに一度も顔を見せないとは考えにくい。

では、この傷は一体どうしてできたのか?

もし、彼女が本当に彼を救ったのなら、なぜそれを隠すのか?

「綿、この傷は、君が——」輝明が問い詰めようとしたその瞬間、言葉が途切れた。

綿の問いかけを遮るように、ドアの外から聞こえてきた声が、場の緊張を一気に破った。

「明くん……」

輝明と綿は、ほぼ同時に振り向いた。

そこには、表情を硬直させた嬌が立っていた。彼女は唇を噛みしめ、目にはうっすらと涙が浮かんでいる。まるで助けを求めるように、か細い声で問いかけた。

「あんたたち、一体何をしているの?」

綿の心臓が不規則に跳ねた。先ほど、輝明が何を聞こうとしてい
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