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第0206話

どうやら、輝明が誘拐された後から、嬌は頻繁に体調を崩すようになったみたい。

「行こうか」と司礼が促した。

綿は小さく頷く。

エレベーター前、二人の間には沈黙が流れた。

司礼の視線が綿の肩や首元に移り、「それで、この傷はどうしたんだ?」と尋ねた。

綿は一瞬ためらった。

彼もまた、彼女と輝明の会話を聞いていたのか?

「ごめん、悪気はなかった。ただ、嬌がドアの外に立っているのを見かけて、気になって近づいてみたら、ちょうど会話が耳に入っただけなんだ」と司礼は説明した。

綿は首を振り、もう気にしないという仕草を見せた。

「子供の頃、陽台から落ちたときに花瓶の上に落ちて、その時の傷よ」と綿は軽くごまかすように答えた。

司礼は彼女の目をじっと見つめ、「本当か?」と問いかける。

「もちろんよ、私は嘘なんてつかないもの」と綿は、美しい顔を誇らしげに上げて、真剣な表情で答える。

韓司礼は思わず吹き出してしまった。

綿は軽く咳払いをし、少し心がざわつく。

「嘘なんてつかない……」司礼は彼女の言葉を繰り返しながら、低く笑った。

愛していると言いながらも、輝明の前で何度も自分と偽りの芝居を続けた女性が、どの口で「嘘はつかない」なんて言えるのだろうか。

本当に美しい女性ほど、嘘をつくときは平然としているものだと、司礼は改めて感じた。

……

翌日。

綿は朝食を食べながら病院へ向かう途中、携帯でニュースをチェックすると、そこにはすでに自分と司礼のスキャンダルの痕跡はなく、まるで誰かが予め全てを消し去ったかのようだった。

救急室を通り過ぎるとき、綿は輝明の姿を見かけた。

オフィスの前に着くと、同僚たちが外で集まっているのが見えた。皆、何かを待っているようだった。

綿は不思議そうに「どうして皆、中に入らないの?」と尋ねた。

須田先生が中を指し、「あんたを待ってるんだよ」と答えた。

「私を?」綿はさらに困惑しながらオフィスのドアを開けると、秀美と美香がソファに座っており、小栗先生がその前に座っているのが目に入った。

綿は眉をひそめ、スマホを取り出して輝明にメッセージを送った。「お母さんとおばあちゃんが私のオフィスに来てる。都合が良ければ来てくれない?」

小栗先生は綿が入ってきたのを見て立ち上がり、「綿先生、あんたを待ってたわ」と言った。

「おばあちゃん
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