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第0195話

高杉さん?と、看護師がそっと呼びかけた。

輝明が振り返ると、全身からは言葉にできないほどの圧迫感が漂っていた。

看護師は緊張して唾を飲み込み、持っていた薬を差し出しながら「こちら、お薬です」と伝えた。

彼は軽く頷き、救急室の方を一瞥しながら低い声で「どうしましたか?」と尋ねた。

「韓井さんのお父様が心臓発作を起こされたんです」と看護師が答えた。

輝明は眉をひそめた。司礼の父親が心臓発作を起こしたのに、綿がそこにいるのはなぜだ?

もしかして、あの酒宴の後、彼女は韓井家の専属医になったのか?

その考えに、彼は冷笑を浮かべた。綿にそんな才能があるとは思えないが、韓井家が彼女を信用するとはな。

看護師は続けて「高杉さん、胃の調子は気をつけてくださいね。食事はきちんと摂らないと」と注意した。

輝明は軽く眉をひそめたものの、「わかりました」とだけ言って、その場を立ち去った。

看護師の言葉を聞くと、どうしても綿のことが頭に浮かんでしまう。この数年間、彼女が何度自分に小言を言ったことか。

酒を飲み過ぎて森下に自宅へ送られると、綿は彼のそばで文句を言いながら、台所とリビングを行ったり来たりしていた。

彼はいつも尋ねていた。「疲れないのか?もう俺のことは放っておいてくれないか?」

彼女は優しく笑って答えていた。「疲れてないわ。私はあなたの妻だから、これが私の役目よ。でも、輝明、少しお酒を控えてくれたら嬉しいな」

その時、彼はその言葉が煩わしく感じて、聞く耳を持たなかった。

だが今なら、その言葉をもう一度聞きたかった。でも、彼女はもうそんなことを言ってくれないのだ。

輝明は胃を抑えながら、温かい水を飲み、薬を飲んだ。

その頃、総一郎は無事に救急処置を受けて、入院することになった。司礼は入院手続きをしに行った。

綿は一人で総一郎のそばに付き添い、脈を診た。

今のところ問題はなさそうだ。

「桜井先生」と看護師が挨拶をした。

彼女は軽く頷いた。

看護師は続けて「さっき、高杉さんが来ていました」と言った。

綿は驚いて顔を上げた。「高杉が?」

「はい。胃の調子が悪くて、薬をもらいに来ていました」

彼女はちらりと横に置かれた薬の処方箋を見た。

それは彼がいつも飲んでいる薬だった。正直なところ、この薬を飲み続けると耐性がつく可能性がある。

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