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第0097話

司礼はその場を離れなかった。

綿が抵抗すればするほど、輝明は彼女を車から降ろそうとしなかった。

「ちゃんと座っていろ」彼は冷たい声で言い、アクセルを踏み込んだ。

スポーツカーは一瞬で走り去り、まるで司礼に対して威嚇するようだった。

綿は怒りを抑え、司礼に謝罪のメッセージを送った。

司礼は丁寧に「気にしないで、僕が遅かっただけだから」と返信してきた。

その返答を見て、綿はさらに申し訳ない気持ちになった。

司礼はとても落ち着いていて、こういう人はパートナーに最適だと思った。

しかし、彼女の心はもう他の誰かを愛することが難しくなっていた。

綿はちらりと輝明を見た。

彼は眉をひそめながら運転していた。綿の視線が熱かったのか、こちらを見返してきた。

綿は急いで窓の外に目を向けた。心の中は混乱し、指先は無意識に絡まり合い、まるで解けない結び目のようだった。

彼女と輝明の関係も、その瞬間、解けない結び目のように感じた。

車は病院の前で止まった。

輝明が車のドアを開けると、綿は彼をちらりと見てから、大股で救急外来へと歩いて行った。

輝明はその後ろを重い表情で歩いた。

綿は落ち着かず、後ろを気にして歩いた。

輝明は眉をひそめ、彼女に並んで歩きながら言った。「何をそんなに気にしているんだ」

綿はただ不思議に思った。

以前はどこへ行くにも輝明に一緒にいてほしいと願っていた。

しかし、今はただ煩わしいと感じるだけだった。

診察室には、先日の医師が既に待っていた。

綿は頭を下げ、治療を任せた。

輝明は横で尋ねた。「今回の治療が最後ですか」

医師「はい、もう来る必要はありません」

三秒ほどの沈黙の後、輝明は再び尋ねた。「跡は残りませんか」

「小さな傷なので、跡は残りません」医師は答えた。

「そうですか」輝明は少し安心したようだった。

綿は彼を睨み、心が痛んだ。

跡が残ることなど全く気にしていなかった。既に跡が残っているからだ。

突然、看護師がノックし、「倉木先生、外でお客様が待っています」と言った。

医師は外の人に待つように言おうとしたが、輝明が頷いたため、すぐに外に出て行った。

綿は数分で終わるのに、と思いながら口を開けた。

すると、輝明が近づいてきた。ベッドのそばに座り、手を差し出して「手」と言った。

綿は一瞬戸惑ったが、
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