第0099話

白衣を着た医師たちが生き生きとした表情で歩いていた。先頭に立つのは三十代の女性で、一年前に第二病院の心臓外科に赴任した主任医師の小栗蘭先生だった。彼女は冷たい性格と群を抜く技術から「女魔王」と呼ばれていた。

これから綿が指導を受けるのは、この小栗先生だ。

小栗先生はカルテを見ながら、綿を見つけると、綿は「小栗先生」と挨拶した。

彼女は軽く頷き、「新入りね？オフィスで待っていて」と言い残し、そのまま去って行った。

医師たちの一団が前進し、綿は壁際に立ってそれを見送った。

後ろにいたインターンたちは綿に視線を向け、小声で囁き始めた。「あれ、桜井家のお嬢様じゃない？」

「桜井家は医療一家なのに、彼女だけが落ちこぼれなんてね」

「そうそう、何もできないって聞いたよ……コネで医学院に入って、今度はコネで心臓外科に入ったんだろ？」

「まったく、権力があるっていいよな！俺たちが何年も頑張ってやっと入った第二病院に、彼女はコネで簡単に入れたんだもんな！」

その時、小栗先生が足を止めて振り返り、鋭い視線を向けた。

皆、口を閉じて黙り込んだ。

綿はオフィスに向かわず、科内を歩き回り、環境に慣れることにした。

ナースステーションに立ち寄り、看護師たちに挨拶して顔を覚えてもらった。

すると、看護師たちが話しているのが耳に入った。「聞いた？院長が先日打ち合わせ中に足が痙攣して、もう駄目かと思ったら、誰かが現れて助けたんだって！」

綿は白衣のボタンを留めながら、その話に耳を傾けた。

「細身の女の子が現れて、シュッと何本かの針を刺したら、すぐに治っちゃったんだって！信じられる？」

話していたのは、ふくよかな小柄の女の子で、二重まぶたの丸い目をしたとても可愛らしい看護士だった。

「本当なの？」綿は話に加わった。

彼女は笑顔で言った。「信じられないでしょ？でも本当に一瞬で治ったんだから！」

「そんなにすごいの？誰がそんなことを？」誰かが尋ねた。

「三年前に姿を消した名医の段田綿だって！」看護師は自信満々に顔を上げて言った。

綿は自分の唾液で思わずむせそうになった。

「どうして彼女だってわかるの？」綿は不思議に思った。

「写真を見れば一目瞭然だよ！」看護師は親しげに綿に近づき、スマホを取り出してその鍼灸治療の写真を見せた。「これが段田綿の鍼灸のやり方だよ！」