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第5章 離婚協議書

三井鈴がこんな口調で彼女に話しかけるなんて、小泉由香里は信じられなかった。

彼女は巨大なサファイア指輪をはめた指で三井鈴を差し、「何、その態度!もう一度言ってごらん!」

三井鈴は全く恐れることのない様子で、美しい目で小泉由香里を見つめながら言った。「あの若菜という女が安田家に入った以上、家事なんかは彼女にやらせてくれればいいんじゃない。私はもう二度とやらないと言ってました!」

はっきりとした言葉が三井鈴の口から一つずつ吐き出された。

こう言った後、彼女は今までにないほどの軽快さを感じた。

一方、小泉由香里は怒り狂った。「お前!」

「お母さん!」と安田遥は小泉由香里の腕を掴んで、声を低くして言った。「お義姉さんは怒っているんですよ!昨夜兄さんが……」

安田遥は昨夜のことに尾ひれをつけて述べた。彼女の口の動きと得意そうな様子から、それが良い話ではないこともわかった。

小泉由香里はすぐに分かったように、三井鈴に向かって高慢な態度で言った。「どうやら夫を留められなかったね、私に八つ当たりするな!」

荷物を引きずってゆっくりと歩いている三井鈴は、突然別荘の外で立ち止まった。

こめかみがぴくぴくと動いた。

彼女は怒りと罵りたい衝動を抑えて、冷たく言った。「この3年間、あなたはずっと私が不妊じゃないかと疑っていますよね?私を疑うより、安田翔平のほうを病院へ行かせて診てもらった方がいいんじゃない?私はあんなふうに挑発したのに、彼は勃起しなかったのですよ。果たして誰の問題なのか、確かめてみたらどうですか?」

「あなた……」この言葉を聞いて、小泉由香里と安田遥は驚いた。

小泉由香里は衝撃から我に返った後、かんかんに怒った。「翔平とすぐに離婚させることも可能だよ!」

彼女は今まで、お婆さんのために、安田家にいる他の人との争いを避けるように、我慢していた。

しかし、今になって、彼女はもう気にしなくなった。

三井鈴は淡々と言った。「どうぞお好きに」

こう言っておいて、小泉由香里がどれだけ騒ぎ立てようか気にせず、彼女は安田家の古屋敷を去った。

彼女が去った後、小泉由香里はますます何かがおかしいと感じたので、安田遥に言った。「部屋に行って、金になるものはなくなってないか確認してきて。彼女の箱が重そうだから、何か入っているかも!」

しばらくして、安田遥は慌てて階段から下りてきて、手には書類が持っていた。

「お母さん!何もなくなっていません。テーブルにこれが置いてあります!」

小泉由香里はそれを渡され、内容を見ると体が震えた。

上にはっきりと「離婚協議書」という大きな文字が書かれていた。

小泉由香里はすぐに安田翔平に電話をかけ、三井鈴への不満を訴えた。「離婚協議書」と「勃起不能」という言葉を聞いた後、安田翔平は手で合図をして会議を終わらせ、椅子の背もたれからコートを取り、会議室を出た。

「お母さん、焦らずゆっくり言ってください」彼は冷静に母親をなだめた。

「私は焦るなんかしてない、腹が立って仕方がないだけなの!丁度いいよ、彼女がいなくなって、若菜は正々堂々と入るんだ。でも、彼女が先に離婚を切り出したのは気にくわなかった!」

小泉由香里はまだ向こうでぶつぶつと愚痴をこぼしているが、安田翔平はすでに電話を切った。顔色が少しずつ曇り、表情が怖かった。

彼は今でも従順でおとなしかった女がこんなにも姑を逆らうことをするとは信じられなかった。

昨夜の三井鈴の異常な行動を思い出し、彼は直ちに携帯から三井鈴の電話番号を見つけた。

三井鈴に電話をかけるのが、これは3年間で初めてだった。

「社長」電話はまだつながっていないのに、アシスタントの蘭は最上階でエレベーターを降りた後、彼に向かって駆け寄ってきた。

「さっき、私のメールボックスにメールが届いたんです。秘書三井鈴の辞表です」

蘭は息を切らせながら言った。「三井さんは多くのプロジェクトを担当しています。中に最も大事なのは、ドバイ医療機械展示会。私たちはまだ引き継ぎをしていないのですが……どうしましょう……」

安田翔平はますます不機嫌になり、携帯電話から流れてきた「おかけになった電話は現在通信中のためかかりません。後でおかけ直しください……」という音声を聞いた後はさらにひどくなった。

三井鈴は彼の電話を切った。

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