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第6章 安田翔平の会社へ行く

この時、三井鈴は空港のロビーに立ち、すでに暗くなった携帯の画面を見つめ、やっと一息ついた。

おそらく安田家で自分を抑えるばかりしていたから、今は却ってとても心地よいのだ。

行き交う旅行客を見て、浜白を離れることを考えると、悲しいの?

もしかしたらそうかもしれないが、でもそれより、胸の痞えが下りていい気分だった。

以前は安田翔平が彼女を愛していないとしか分からなかったが、今は彼が他に好きな人がいるんだと分かった。

このような状況なら、彼女はスッキリと手を放したほうがよかった。

三井鈴は空港のカウンターで直ちに搭乗手続きを済ませた。彼女は既にドバイ行きの航空券を予約していた。

以前、彼女は家族から離れ、身分を隠して浜白に残った。

もしも祖父が今回のドバイ医療機械展示会のプロジェクトを機会に、彼女と安田翔平に会おうとしていなかったら、このプロジェクトを安田グループに任せるはずがなかったのであろう。

しかし、安田翔平は感謝の言葉さえもなく、彼女一人だけをドバイ行かせた。

今、帰る時が来た。

「申し訳ございません、このチケットは現在異常状態になっており、搭乗券を発行することができません」と、ファーストクラスのカウンターの女性が丁寧に彼女を断った。

「異常状態?」三井鈴は驚いて言った。「おかしいなあ、もう一度確認して貰えますか」

「このチケットは会社のアカウントで予約されたものですか?先ほど返金操作が行われているかもしれません。身分証明書を見せていただけますか?」

「……」三井鈴は納得した。

そうなんだ、彼女は安田翔平の秘書で、ほとんどのアカウントは安田グループが申請したものだ。

そして身分証明書は……

先日、会社の人事部に登録用途で持って行かれたことがあった。

三井鈴は本当に困った。彼女はただこの自分を悲しませた街を早く離れることしか考えておらず、こんな細かいことまでは考えていなかった。

「申し訳ありません、電話で確認してみます」

彼女は横に行き、携帯電話を取り出して、安田グループの人事部に電話をかけようとした。しかしまったくかけられず、番号がすでに解約済みだと表示された!

三井鈴はぞっとした。彼女はなぜ忘れてしまったのか、彼女の携帯番号も安田グループが契約したものだと!

安田、安田め!

この二つの文字はまるで悪霊のように付き纏った。

空港を出た後、三井鈴は直ちにタクシーを拾って安田グループのビルに向かった。

車窓の外では、雨がパラパラと降り始め、すぐに市内の高層ビルが目に入った。

彼女は運転手に2000円を渡し、荷物を引きずって先端技術が施されたビルの正面玄関から入った。

彼女の退職に関する噂はまだ広まっていないみたいだ。雨水で髪の毛が濡れて、べったりと顔についたから、何度も顔認証に失敗したが、ようやく成功して、エレベーターに乗り込むことができた。

彼女は12階、人事部がある階のボタンを押した。

「おいおい、三井さん、あなたは避難しにきましたか。酷い顔!」人事部の責任者は、森田という、女のような仕草をする男で、お世辞を言うのが得意だ。

三井鈴は安田翔平に雑に扱われているのを知っているから、普段から三井鈴に対してこきを使うのに慣れていた。

「私の身分証明書はどこにあるの?」三井鈴は今日は彼とやり取りする気にならず、直接聞いた。

「身分証明書?知りませんわ。ちょうどあなたが来る前、社長室の蘭さんが持って行きました」

三井鈴、「……!!!」

彼女はこの結果を予想できるはずだった。

安田翔平はビジネスに関しては有言実行で、行動も迅速なので、商業界では有名なビジネスマンだ。

彼女がこのように彼の権威に挑戦するのを許してくれないだろう!

彼女は荷物を引きずって安田翔平のところに行こうとしたが、森田が彼女を呼び止めた。挑発なのか悪意を持っているのか分からなかった。「解雇されても態度には気を付けてくださいね。最上階では会議中ですから。それに社長の婚約者が来たみたいですよ」

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