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第4章 私はもう安田家の人間ではない

三井鈴はすぐに彼の上着を脱ぎ、彼の腹部の筋肉に沿ってキスをして行った。彼をあんまりにも愛し、渇望しているため、彼女は耳の根元も赤くなった。

彼女は動きを止めず、かすれ声で言った。「安田家の嫁になった経緯を尋ねてくれたお陰で、あなたの妻としての最も大切な責任は、子供を産むことだと思い出させてくれた……..私はただ責任を果たしているだけなんだ」

「何てことを?!」

彼が怒り出すと、腹部の筋肉の形が鮮明になった。

「部屋には媚薬を少し吹きかけたの。ちょっと我慢して、すぐ楽にさせるから。私はただ...…子供が欲しいだけなんだ…...」

彼女はほしいままに振る舞うようになり、かつて彼の前で見せた優しさと従順さを一変させた。

彼女の卑劣な挑発を感じた後、体は本能的に反応したように、安田翔平の呼吸は重くなってきた。

しかし、彼は媚薬の影響によるすべての反応を抑え込み、思うままに動いた彼女の指を摑まえた。「お前を見てるとへどが出る!」

女性の溢れ出た欲望は、この言葉によってあっさりと消えてしまった。

彼女は湿った目を上に向け、最後に一度、期待しながら尋ねた。「私とするのは、そんなに嫌か?」

「そうだ!」

安田翔平は彼女をじっと見つめ、ためらうことなく言った言葉で、彼女の心は容赦なく引き裂かれた。

そして次の瞬間、彼女は安田翔平に思い切り押しのけられた。

安田翔平は彼女に対して一言もかけず、地面から服を拾い上げ、すばやく身につけた。

シャツのボタンを留めるのさえもせずに、彼女の前をすっと通り過ぎて行った。

ドアが「バタン」という音と共に閉められると、寝室全体が静まり返った。

三井鈴は床にぐったりと座り込み、爪を掌に強くあてがって、冷たい表情になっていた。

これで彼女も漸く諦められるだろう。

翌朝、三井鈴は足を引きずりながら、荷物を運んで階下に降りてきた。食卓の方では使用人が既に料理を並べていた。お婆さんはこの時間帯は祠堂で仏を拝むので、リビングにはいなかった。

「おや、お義姉さん、運よく帰って来たばかりなのに、荷物を運んでどこに行くの?旅行?」と言ったのは安田遥で、安田翔平の妹であり、現在は浜白大学の2年生であった。

彼女は三井鈴のことが気に入らないから、いつも皮肉っぽい口調で話すのだ。「でも、出かけるなら、先ずは私のヘアメイクをして、学校に送ってくれてからにしよう!」

三井鈴は手先が器用で、彼女のヘアスタイルは同級生に褒められることも多かった。

しかし、今日、三井鈴は全くその話を気に留めず、荷物を引き摺って1階に行くと、すでに貴婦人のように身なりを整えた義母の小泉由香里に出くわした。

小泉由香里は安田理事長の再婚相手であり、安田翔平と安田遥の実の母親であった。

彼女は三井鈴の出身を見下しており、三井鈴に対しては常に無礼な態度を取っていた。「朝からスーツケース持って何してるの?早く置いて、寝室の片づけを手伝いなさい。お客さんが住むことになるから」

三井鈴は嫌な予感がした。そこで、安田遥が好奇心旺盛に尋ねた。「誰?お客さんって」

「他に誰がいるっていうの!あなたの若菜姉さんだよ!」

「何?若菜姉さんが海外から帰ってきたの?」

「それだけでなく、あなたの兄の子供を妊娠しているの!ここは風水が良いので、彼女は帰らず、しばらくここで静養することになったのよ。」

小泉由香里は言いながら、三井鈴の方をちらりと見た。佐藤若菜こそが彼女の理想の嫁だった。あの件がなければ、彼女の息子に嫁ぐのは佐藤若菜だったはずだ!

彼女は三井鈴に向かって鼻を高くして言った。「何をぼんやり立っているの?早く行きなさい!」

従来なら、三井鈴は気遣って言われたままにするのだろう。

しかし、今日はこれらの話を聞いた後、彼女は機嫌を取りそうな様子はなかった。

心が耐えられないほど痛むものの、彼女は冷たい態度を装おうと必死だった。「今日から私は安田翔平にとってただの他人になります。家事なんかはもうしません」

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