第97話

氷川はひと息ついてから、「分かった、もう出て行ってくれ」と言った。

部下は静かに社長室を出て行った。氷川はすぐに仕事へと没頭した。

一方、氷川グループを出た美咲は、高速道路をただひたすらに走り続けていた。彼女の心は、絡まった糸のように乱れていたのだった。

今日、氷川の母親が姿を現したことで、彼女は現実を突きつけられた。普段から、彼女は氷川に頼りすぎていた自分に気づいたのだ。何か問題が起これば、すべてを彼に任せてしまった。

しかし、本当に自分は氷川にふさわしいのか？なぜ彼からのすべてを当然だと思ってしまったのか？自分の心がいつからこんなにも変わってしまったのか、と、美咲は思い悩んでいた。氷川が自分に特別な気持ちを抱いていたことに気づいた時、他の女性たちは彼の周りにいなかったことに気づいた。千夏は自分の親友であったことから、氷川は彼女に多少の顔を立てていただけだった。

それ以来、自分が氷川を頼りに、好き勝手に振る舞ったようになった。こんな風に甘やかされていたけど、このままでは良くなかった。

このまま続けたら、いつか氷川に飽きられただろう。

彼のような金持ちは簡単に離婚できた。自分の署名なんて不要で、離婚届を役所に提出すればそれで終わった。

そんな日が来たら、自分が騙されたことに気づかないかもしれなかった。

考えれば考えるほど、美咲の不安が募っていた。

車のスピードがどんどん上がり、気がつけば高速道路の制限速度に達していた。それに気づいた美咲は、速度を落とした。

どれほどイライラしていても、こんな運転をしてはいけなかった。

そう考えると、美咲は少し心が落ち着いてきた。彼女は真剣に運転しながら、車をオープンカーにした。吹きつけた風が顔を叩き、彼女の頭をすっきりさせた。

そして、気づけば見知らぬ場所に来てしまっていた。「あれ？「どうしよう？」

彼女は慌てて高速を降りた。

美咲はショッピングモールの駐車場に着き、車を降りてスマートフォンを取り出し、ナビを確認しようとした。氷川に知られたら絶対に叱られるだろう。

まだ愚痴を言い終わらないうちに、横からためらいがちな声が聞こえた。「今日は颯真のそばにいた人なのか？」

それを聞いた美咲は顔を上げた。それは上田優子じゃないか？

なんて運が悪かっただろう。さっき別れたばかりなのに、数分後にまた会ってしま