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第104話

美咲が料理を口に運ぶと、その酸味と甘味が絶妙に混ざり合い、長い間眠っていた食欲が一気に目覚めた。彼女はその美味しさに微笑んだ。須山は彼女の笑顔を見て心から喜びを感じていた。彼女が戻ってきたことに、彼の心は柔らかく温かくなった。

昔、彼は美咲のことが好きだった。

「どう、美味しい?」

「うん、とても美味しい!」美咲は嬉しそうに頷き、口元に少しソースがついてしまった。

そんな彼女に、須山は優しくハンカチを差し出した。

美咲はそのハンカチで口元を拭い、それをよく観察した。「今どきハンカチを持ち歩く人なんて珍しいわね。須山さんは男なのに。

「それにしても、このハンカチ、とても素敵だ。どこで買ったの?私も買いたい」

それを聞いた須山は微笑んだ。彼は、美咲が大学一年生の頃にハンカチを愛用していたのを見つけたから、自分もそのハンカチを買った。

当時、須山は太っていた。自信がなかった彼だが、痩せたことに成功した頃には美咲は海外に行き、彼氏ができたと聞いて諦めてしまった。

しかし、須山は美咲を忘れられず、彼女の痕跡が残ったキャンパスで勉強を続け、さらに博士号を取得した。

須山は微笑んで、「これ、僕が作ったんだ。もし気に入ったなら、美咲のためにデザインしてあげる」と言った。

美咲は驚きで目を丸くした。「須山さんは自分で作ったの?

「こんなに器用なんて!」

須山は微笑んだ。「そんなに褒められると照れるよ。僕はこれくらいしか特技がないんだ。他にできることはないし」

美咲は須山にハンカチを返そうとしたが、ふと手を止めた。

気づかないうちに、彼のハンカチで口を拭ってしまっていたのだ。

そのハンカチにはまだソースの跡が残っていた。

「これをそのまま返すのは失礼かな?」と考えた彼女は、恥ずかしそうに手を引っ込めて、「洗ってから返る」と言った。

本当にごめん…

須山は最初気にせずハンカチを受け取ろうとしたが、

「次に会うきっかけになるかもしれない」と思い、「じゃあ、よろしくね」と答えた。

美咲は顔を赤くして言った。「「ごめんい、このハンカチは須山さんの大切なものだと気づかなかった」

「大丈夫だよ。それより、最近彼氏とはどう?」と、須山は聞いた。

彼も美咲のことが好きだったが、他人の彼女を奪ったことをしなかった。

大学時代の美咲はいつも黒崎の好みに合わせ
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