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第108話

氷川は一日中、デスクの上に山のように積まれた書類に目を通し、ついにすべて片付け終えた。

彼はアシスタントを呼び出した。

「社長、どうなさいましたか?」とアシスタントは尋ねた。

「美咲の様子を教えてくれ」と氷川が訊ねた。

アシスタントは手元のタブレットを操作しながら報告した。

「社長、奥様は今日は会社には来ておられず、どこに行かれたのかは不明です」

これを聞いた氷川はすぐに不安になった。「何だと!?

「君たちも彼女がどこに行ったか分からないのか?」

アシスタントは冷静にタブレットを閉じ、氷川に丁寧に頭を下げた。

「社長、ご安心ください。直ちに調査を開始し、奥様がどこに行ったのかを確認いたしますので、少々お待ちください」

氷川は心配でたまらなかったが、結果を待つほかなかった。

彼は心の中で祈った。

間もなく結果が報告された。

「社長、奥様は本日、大学を訪れた後、高速道路をしばらくドライブし、カフェで顔が映らなかった女性とコーヒーを飲んでおられました。現在、奥様はすでにご自宅に戻られたようです」

氷川は、その言葉を聞いて、ほっとした。

「家に無事に帰ってくれてよかった」彼にとって、妻の安全が最優先だった。彼はデスクから立ち上がり、スーツジャケットを肩にかけながら、

「車を用意してくれ、家に帰る」

「はい」

アシスタントはと丁寧に応じ、指示を迅速に実行した。

氷川は車に乗り込み、急いで家路につき、わずか十五分で到着した。

ちょうどその頃、美咲も帰宅したばかりだった。

彼女は少し疲れていたため、ゆっくりと運転していた。

家に着くと、ちょうど車から降りてきた氷川と鉢合わせになった。

彼は美咲が少し疲れた様子を優しく目を細めながら見つめた。

美咲は、少し大きめの男物のコートを羽織っていた。体は一度濡れたようで、今は乾いていたものの、ベージュのドレスには水の跡が残っていた。髪も乱れ、肩に無造作にかかっていた。

妻の様子を見た氷川は抑えきれなかった怒りを覚え、「どこに行っていたんだ?」と問いた。

美咲はきょとんとして、「特にどこにも行っていないわ。ただ、少し気分が悪くて、車でドライブしながら母校を訪れただけだ」と答えた。

氷川は、彼女の身にまとう大きな男物のコートを見て、にやりと笑いながら言った。「美咲、そのコートについて何か説明
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