第35話

哲也は自分の耳を疑った。「何だって？」

「チャンスを与えなかったわけじゃないわ。でも今になっても、あなたは私に責任を押し付けようとしている。新崎さん、私がそんなに馬鹿に見えるの？」

美緒の声は氷のように冷たく、口元には皮肉な笑みが浮かんでいた。

哲也は背筋が凍るのを感じた。

目の前の女性があまりにも見知らぬ人のように思えた。数年間知っていた彼女とは違う。彼女は鋭く、捉えどころがなく、制御しがたくなっていた。

「美緒、どういう意味だ？俺を信じていないのか？」

「あなたを信じすぎて、自分がどうやって売られたのかも分からないところだったわ」少し間を置いて、美緒は余計なことを言いたくない。「今、あなたに感謝しているのは、私と正式な契約を結ばなかったことだけよ。今日から、あなたの新若は私とは何の関係もないわ」

「あなたの」という言葉を強調し、彼女は彼の側を通り過ぎて立ち去ろうとした。

哲也は彼女の腕をつかんだ。状況を完全に理解できていなかったが、今彼女を行かせてはいけないことは分かっていた。

「正式な契約を結ばなかったことを怒っているのか？」彼は探るように尋ねた。「美緒、そんな子供じみたことはやめてくれ。契約の有無がそんなに重要なのか？それが問題なら、もっと早く言ってくれればよかったじゃないか。こんなに大げさにする必要はないだろう？」

「新若は俺のものだ。でも、お前のものでもあり、俺たちのものじゃないのか？今のお前は新若の皆を窮地に追い込んでいるんだぞ、分かっているのか？！」

彼の手の力が強くなり、彼女の腕が痛んだ。

美緒は眉をひそめた。「離して！」

「話をはっきりさせるまで離さない」

少し間を置いて、哲也は自分の口調が強すぎたと感じたのか、気持ちを落ち着かせた。

彼は頭を下げて考え込み、何かを思いついたようだった。目を上げて美緒を見つめ、率直に言った。「美緒、嫉妬しているのか？」

実際、哲也は自分と綾子の関係が美緒に発覚することを恐れてはいなかった。彼女は自分に夢中で、いつもそんな噂を気にせず、彼が甘い言葉を言えば素直に信じてしまう。疑うはずがなかった。

しかし、ここ数日の彼女の様子は確かにおかしかった。特に綾子に対する態度が。

それで彼は賭けに出ることにした。先手を打って、自分から明かすことにしたのだ。

「若江さんのことを嫉妬している