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第220話

紗希は唇を引き締めた。

「調べてみなさいよ。証拠を見つけたら、その時改めて交渉しましょう」

その時、ドアの外から北の声が聞こえた。

「紗希」

「はい、すぐに行くわ」

紗希は即座に電話を切った。

一方、拓海は電話越しに男の声を聞いた。

その声には少し聞き覚えがあり、詩織の北兄さんの声のようだった。

男は薄い唇を一文字に結んだ。

こんな早朝から北がなぜ紗希と一緒にいるのか?

それとも昨夜からずっと一緒だったのか?

その考えが頭をよぎると、胸の奥に何かが詰まったような不快感を覚えた。

拓海は冷ややかな表情で裕太を見た。

「古い団地の立ち退き問題の調査はどうなっている?」

裕太は忙しさに頭を抱えながら答えた。

「古い団地の立ち退き?ああ、城東のプロジェクトですね。我々のグループは既に立ち退き世帯と交渉を済ませました。問題はないはずです」

拓海はイライラしてこめかみをさすった。

「紗希の実家がある古い団地のことだ!頭を使え!」

裕太は唾を飲み込んで答えた。

「その小さな建設会社の社長が、グループの誰かが挨拶に来たと言っていました。調べてみたところ、その人は玲奈の母の部下のようです。つまり、これは玲奈さんと関係があるはずです」

玲奈が紗希を狙ったのは初めてではなかった。

拓海の眉にいらだちの色が浮かんだ。

「それで?」

「そして、今日がその古い団地の契約書にサインする日です。若奥様の伯母の家は、養父母が先にサインしてしまったようです」

拓海は眉をひそめ、立ち上がって言った。

「すぐにその古い団地に行く」

裕太は困惑した表情で言った。

「グループに戻って玲奈様の件を処理しないんですか?広報部の人々が社長を待っています」

「広報部の仕事を私が直接処理しなければならないなら、彼らは何のためにいるんだ?」

拓海はスーツの上着を手に取ると、すぐに出て行った。

裕太はため息をついた。

社長は若奥様に説明したいだけなのだろうか。

——

一方、紗希が拓海との電話を切って寝室を出ると、六人の兄全員がホールに集まっていたのを見た。

彼女は少し驚いた。

「みんなどうしてここに来た?」

平野は口を開いた。

「応援に来ると言ったなら、絶対に来る」

紗希は感動した。

家族に支えられる感覚は本当に良いものだ。

一行は朝食を済ませ
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