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第222話

拓海は車の窓を下げ、抱き合っている男女を確認すると、目つきが冷たくなった。

裕太は驚いて言った。

「あれは北先生じゃありませんか?」

男は冷たい声で答えた。

「目は見えている。あなたに言われるまでもない」

彼は車のドアに置いていた手をゆっくりと引っ込めた。

その頃、紗希は団地の入り口で地面に押し倒されそうになったが、北が間に合って助かった。

紗希は驚いて顔が真っ青になっていた。

もしここで暴動が起きたら、彼女のお腹の中の赤ん坊が危ない。

北も少しショックを受けていた。

「紗希、次はこんな無謀なことをしちゃダメだよ。妊婦なんだから」

紗希は舌打ちして言った。

「分かったわ。さっき伯母が飛び出して行ったのを見て、ちょっと心配になって。伯母を引き止めようと思ったんだけど、こんなに人が多いとは思わなかった」

「紗希、僕たちを頼ることもできるんだよ。あなたには6人の兄がいる、分かる?僕たちに伯母を探しに行ってもらえばよかったのに」

北は紗希の額を軽くたたいて言った。

「次はこんなことしないで」

紗希は素直に頷き、北と一緒に古い団地に戻りながら、突然道路の外側を振り返って見た。

何か変な感じがしたが、はっきりとは言えなかった。

紗希は視線を戻し、北と一緒に団地の中庭に戻り、伯母が無事なのを見てようやく安心した。

紗希はまた6人の兄に叱られた。

伯母は少し心配そうに言った。

「あの会社が破産した後も、立ち退きは続くのかしら?」

平野は自信満々に言った。

「心配しないで、立ち退きは続くよ」

紗希は実際にはもう期待していなかった。

もともと立ち退きは運任せだった。

しばらくすると、外から制服を着た一群の人々が入ってきた。

彼らは大きなメガホンを持って言った。

「皆さん、こんにちは。私たちはこの会社を引き継いだ代表で、大手グループの三井不動産グループから来ました。皆さん順番に並んで署名してください。立ち退きの邪魔はしませんよ」

すぐに皆が次々と並び始めた。

紗希は少し驚いて言った。

「買収したのが三井不動産グループだったなんて!」

平野は真面目な顔で言った。

「紗希はもっと安心していいはずだよ。大手グループは実力があって保証もあるからね」

しかし紗希はそれほど喜んでいなかった。

三井不動産グループは詩織の兄の事業だ。
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