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第229話

紗希は拓海の手のひらが乾燥していて力強いのを感じ、少し表情が引き攣った。

彼女は手を引っ込めたかったが、おばあさんがまるで遺言を言い聞かせるかのように二人の手をしっかりと握っていてどうすることもできなかった。

「もし私に今回の手術で万が一のことがあっても、しっかり二人でやっていくのよ。今は子供もできたんだから、以前のようなことはダメよ」

紗希は渡辺おばあさんの言葉を聞いて、胸が詰まった。

「おばあさん、大丈夫ですよ。だって、赤ちゃんの誕生を見届けなれければならないでしょう」

渡辺おばあさんは安心したように笑った。

「そうだね、子供の誕生を見届けるわ」

紗希は唾をごくりと飲んた。

みんなは彼女が偽の妊娠でおばあさんを手術に向かわせようとしていると思っているが、妊娠が本当だということは彼女だけが知っていた。

隣にいる男は低い声で言った。

「おばあさん、僕が紗希と子供のことをしっかり世話します。心配しないでください」

この言葉を聞いて、紗希の目に嘲笑の色が浮かんだ。

だって、彼は明日詩織と婚約するのだ。

やはり、男の言葉は当てにならない。

渡辺おばあさんは時計を見た。

「もう遅いわね。二人は出かけて食事をしてきなさい。病院の食事は薄味で栄養がないから、私と一緒に食べさせるのは遠慮するわ」

紗希はほっとした。

もし渡辺おばあさんが一緒に食事をしようと言ったら、どう断って良いか分からなかった。

紗希は、6人の兄が家で待っていたので、帰って食事をしなければならなかった。

渡辺おばあさんが手を離すと、紗希は無意識に自分の手を引っ込めようとしたが、拓海がしっかりと握ったまま離さなかった。

紗希は唇を噛んで、何も表に出さなかった。

病室を出ると、紗希はすぐに手を引っ込めようとしたが、拓海はまだ離さなかった。

紗希は顔を上げて彼を見た。

「拓海さん、もうおばあさんには見えないから、演技を続ける必要はないわ」

男は目を細めた。

「お前が住んでいた古い団地、今日立ち退きの署名があったって聞いたけど?」

彼女は目に嘲笑を浮かべて言った。

「そう、玲奈が私を困らせようとしたけど、あの小さな建設会社が破産したので、結局私の家が立ち退き料をもらうのを止められなかったわ」

拓海は薄い唇を冷たく結んだ。

「お前は人脈が本当に広いようだね。お前を
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